咳に用いる漢方薬

咳の続く時
辰田 仁美 先生  
和歌山労災病院 呼吸器内科部長・働く女性健康研究センター長
https://www.kampo-s.jp/web_magazine/back_number/372/kaze-372.htm

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急性咳嗽と遷延性・慢性咳嗽


日本呼吸器学会から2019年に
『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン』が発刊されています。
持続する咳の原因となる疾患は、
大きく分けると急性咳嗽と遷延性・慢性咳嗽に分けられます。
急性咳嗽としてはマイコプラズマ感染症、百日咳、クラミジア感染症が多く、
遷延性・慢性咳嗽は副鼻腔炎、気管支拡張症、咳喘息、
アトピー咳嗽、胃食道逆流症候群、感染後咳嗽などがあります。 .

1. 感染性咳嗽

原因微生物が気道局所に存在する活動性感染性咳嗽と
原因微生物がほとんどいない感冒後咳嗽に分けられます。
活動性感染性咳嗽は症状発症時から3週間以内のことが多く、
この時期は細菌感染がある場合は抗菌薬が必要になります。
マイコプラズマ感染症の場合は初期から乾性咳嗽が激しいために、
リン酸コデインなどの鎮咳薬では改善しないこともあり、
麻杏甘石湯や五虎湯が役に立ちます。 .

2. 感染後咳嗽

原因微生物は免疫力や抗菌薬の投与により排除されているか、
少数になっているが咳が続く状態です。
西洋医学では鎮咳薬や去痰薬を処方する時期ですが、
漢方薬は咳嗽の種類により(湿性か乾性か)処方を決定します。

麦門冬湯は、麦門冬(10g)、半夏(5g)、
人参(2g)、甘草(2g)、大棗(3g)、粳米(5g)からなり、
その名前が示すように麦門冬が全体の生薬量の約1/3を占めています。
半夏は上腹部の不快感を取り、咳き込むのを抑え、気が上がるのを防ぎます。
甘草には抗炎症作用、麦門冬には冷やす作用があるため
熱を感じる場合に効果があります。
麦門冬湯は潤す作用が強く、痰が多くなるため、
痰が絡む咳(感染症など)よりは、乾性咳嗽に用います。
また、喘息患者さんでは咳感受性が亢進している人も多く、
麦門冬湯で咳感受性を低下できたという報告もあります。
麦門冬湯の鎮咳作用の薬理学的特徴は、求心性神経の興奮抑制作用(鎮咳)、
気道粘膜での抗炎症作用、肺サーファクタント分泌促進作用(去痰)、
気管支腺からの水分泌正常化作用(滋潤)と考えられています。 .

清肺湯は16種類の生薬からなる漢方薬で、
清熱、滋潤、利水、鎮咳、去痰などの作用を発揮します。
清肺湯は水分泌促進作用と線毛の保護、線毛運動の促進作用などを有して
気道クリアランス作用を高め、
痰の排出を促進することで咳嗽の抑制が期待できます。
清肺湯の去痰作用は水分泌促進作用が関与していますが、
通常の去痰薬には見られない、
アクアポリン5の活性促進作用が関与していると報告されています。
また清肺湯には甘草も含まれていますので、抗炎症作用も期待できます。

竹筎温胆湯は13種類の生薬からなる漢方薬であり、
気滞を改善する柴胡、香附子、枳実を含み、
脳の興奮状態(不眠など)を鎮静させる竹筎、黄連が配置されています。
補気のための人参や胃腸を整える二陳湯の成分も含み、
胃腸機能も調節しています。
滋潤作用の麦門冬、消炎作用の桔梗も加えられているので、
風邪の回復期に夜間の熱が長引くために元気がなくなり、
咳や痰で胸苦しくて気が高ぶって眠れないときに適応となります。

まとめ
今回は、長引く咳が漢方薬で改善した4症例を紹介しました。
咳が乾性か湿性かを鑑別し、
乾性で実証であれば麻杏甘石湯、
虚証であれば麦門冬湯、
咳が湿性であれば清肺湯、
また長引く夜間の咳で不眠の場合は竹筎温胆湯、
この4処方から処方の幅を広げてみてください(表)。 .