高齢者・虚弱者の風邪

高齢者・虚弱者の風邪・インフルエンザ
http://www.kampo-s.jp/magazine2/249/index.htm



国立病院機構霞ヶ浦医療センター耳鼻咽喉科医長
星野朝文先生


葛根湯の構成生薬のひとつに麻黄があります。
麻黄には、プソイドエフェドリンなどのエフェドリン類が含まれています。
そのため、虚血性心疾患や前立腺肥大で排尿困難のある方に対して注意が必要です。
また、胃腸障害がおこりやすいこともあり、全般的に麻黄を含む葛根湯は、
「高齢者・虚弱者」に使用する場合は、十分注意が必要とされています。

「ゆるいカゼ」には

では、葛根湯以外ではどんな処方がすすめられるのでしょうか?
僕の一番のお勧めは香蘇散です。
はっきり言って非常にマイナーな薬ですが、
高齢者や虚弱者の風邪の治療には欠かせない薬です。


重篤感のない「ゆるいカゼ」には、香蘇散を使ってください。
僕は、漢方講演会では「『○○顆粒』を出したくなる患者さんには香蘇散を!」
ということにしています。そして、香蘇散には要注意生薬である麻黄は含まれていません。


もうひとつのおすすめが麦門冬湯です。
こちらは、長引く咳嗽などで比較的知られている処方ですが、
いろいろな局面で“使える”薬です。
最近は、エビデンスも蓄積されている処方でもあり、僕の頻用処方です。
風邪の治り際の長引く咳が使用の目安ですが、比較的早い時期からも使えます。
麦門冬湯は末梢性鎮咳薬(去痰剤などを除く)なので、
一般薬の中枢性鎮咳薬とは違って、眠気もありません。
しかも、他の漢方薬と比べて苦みがあまりなく、ほのかな甘みさえあります。
僕の味覚では「トウモロコシの芯を齧った時の味」です。
だから、漢方薬に苦手意識をお持ちの方でも、比較的すんなりと飲めるようです。


これだけ読むといいことずくめのようですが、一点だけ注意点があります。
僕は口腔乾燥症に対しても使うのですが、長期処方をしている方のなかで、
カリウム血症になった方が2人いましたが、休薬で事なきを得ました。
麦門冬湯に含まれる甘草による、偽アルドステロン症が原因です。
ただし、風邪の最中や治り際での、1か月以内の使用であれば、
ほぼ問題はないかと思います。ですから、長期に使うときは注意をしてください。
ちなみに、こちらも麻黄は含んでいません。

発熱のある風邪・インフルエンザには

ここまでが「ゆるいカゼ」です。
では、発熱を伴うような風邪やインフルエンザにはどうしたらいいでしょうか?
そんな時こそ、葛根湯の出番です。
麻黄を含むので、短期間の使用に留めますが、
さすがに虚血性心疾患の既往の方だけは避けます。
葛根湯を考えるときは、簡単に脈診をします。
脈がしっかりと触れれば、葛根湯を出します。
では、少し弱いと感じた時はどうするでしょうか。
そんな時は麻黄附子細辛湯です。