「手根管症候群」に桂枝茯苓丸

私の漢方診療日誌
手のしびれ「手根管症候群」に桂枝茯苓丸 4カ月間、同一処方で完治
平塚共済病院 神経内科医長 中江啓晴先生
http://www.kampo-s.jp/magazine2/204/rensai.htm



手根管症候群は最も頻度の高い単ニューロパチーですが、
見逃されることや誤診されていることも少なくありません。
症状はしびれ、痛みが主体で、女性に多い病気とされています。


Fさんは65歳女性、152cm、体重50kgとやや小柄ですが、がっちりした方です。
既往に高血圧と糖尿病があり、内服加療中です。今回はしびれを主訴に来院されました。


半年前から親指がしびれるようになり、
その後しびれは人差し指、中指と広がっていきました。
症状が徐々に悪化しているため、当科を受診しました。
神経学的診察と神経伝導検査から両側正中神経の手根管部での圧迫が考えられ、
手根管症候群と診断しました。


手根管症候群の治療ではステロイドの内服、
ステロイド手根管内注入、手術などが行われます。
内科的治療とすると内服ですが、
Fさんは糖尿病がありますので、ステロイドの内服はためらわれます。


腹診では腹力は中等度で瘀血の圧痛点を認めます。
瘀血の所見からツムラ桂枝茯苓丸を選択、
これに加えてメコバラミンの内服を開始しました。


1カ月の内服で、「しびれは少し良くなりました」とのことでしたが、まだまだでした。
さらに1カ月内服を継続すると、「右手はだいぶしびれが取れてきました」とのことでした。
そしてさらに1カ月後、「嘘のように良くなりました」とのことでした。
さらに1カ月後には「しびれはなくなりました」と言いました。
4カ月間かかりましたが、完治したようです。


手根管症候群は30-35%で自然軽快すると言われていますので、
Fさんの場合も自然軽快だったのかも知れませんが、
経過からは桂枝茯苓丸が有効だったと考えるのが妥当でしょう。


手根管症候群は手首の屈曲、進展によって発症するので、
いわば手をよく使う働き者の病気と考えることもできます。
女性によく使われる処方として当帰芍薬散、桂枝茯苓丸があります。
当帰芍薬散はお嬢様タイプに、
桂枝茯苓丸は女中さんタイプに使うとよいと習ったことがあります。
Fさんはきっと手をよく使う働き者の女中さんタイプだったのでしょう、
桂枝茯苓丸がよく効いたようでした。