手根管症候群

ステロイド剤の副作用を心配する透析患者

http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/di/diquiz/ より一部改変

◆Question

長期間透析治療を受けている64歳の女性Aさん


手のしびれと強い痛みが出るようになって
先生に話したら手根管症候群といわれました。
どのような病気なのでしょうか。
それにステロイドは確か副作用が強い薬だと聞いたことがあります。
心配ないですか。


プレドニン錠5mg 1錠
1日1回 朝食後 7日分

◆服薬指導

手根管症候群は、長く透析を行っている方に多い症状です。
どうして発症するのかはよくわかっていないのですが
透析で排泄されにくい蛋白質が長い期間を経て手の神経が通る部分にたまり
神経を圧迫することが原因だと考えられています。
それで手のしびれや痛みなどの症状が出てしまいます。
治療では痛みを抑える薬を使うのですが、中でも効果が高いのがステロイドです。
おっしゃる通り、ステロイド剤は大量に長期間使用すると副作用が出てしまいます。
しかし、Aさんの場合ステロイド剤の使用量は少ないですし、使用期間も1カ月程度で
その後はお薬自体中止になるかほかのお薬に変更になると考えられます。
このくらいの量でしたら、ステロイドの副作用はあまり心配ないと思われます。
ただ万が一、かぜのような症状が出たり胃の具合が悪くなったりした場合は
副作用の可能性がありますので、必ず薬局か先生へご連絡ください。

◆解説

手根管症候群とは、手首中央にある手根管という、手根骨と
靭帯から成る管腔内を走る正中神経が圧迫されて起こる正中神経障害である。
患者の多くは中高年女性などの特発例か長期透析患者であり
10年以上の透析患者では80%以上に手根管症候群が出現するといわれるほど頻度が高い。


自覚症状は、正中神経が支配する領域の手指(第1〜3指)や
掌のしびれ、知覚鈍磨、ピリピリとした痛みなどである。
疼痛は夜間から起床時に増悪することが特徴で、睡眠が妨げられQOLへの影響が大きい。
さらに進行すると、親指の付け根の母指球筋が萎縮し
小さなゴミが拾いづらいなど、つまみ動作が困難になってしまう。


手根管症候群の発症機序はよくわかっていないが
妊娠出産直後や中高年女性などの特発例ではホルモンの影響が考えられている。
また、仕事やスポーツでの手首の使い過ぎで発症することもある。
一方、長期透析患者で推定されているのは、β2ミクログロブリンの関与である。
β2ミクログロブリンはリンパ球から作られ、本来腎臓で分解されるが
透析では排泄されにくい。
体内にたまったβ2ミクログロブリンが不溶性の線維状蛋白(アミロイド)となり
手根管に沈着して正中神経を圧迫すると考えられている。


軽度なうちは疼痛緩和に主眼を置いた薬物療法が行われ
病状が進展した場合は手術療法が選択される。
薬物療法では各種のNSAIDsや少量のステロイド剤などを用い
補助的にビタミンB12製剤を使うこともある。
ビタミンB12は神経の髄鞘や軸索の代謝を促す作用を持つからだ。


中でもAさんのような強い痛みには、ステロイド剤が著効する場合が多い。
一般に効果の発現も早い。しかし副作用発現リスクを考慮し、少量を短期間使うのが普通だ。
厚生労働省研究班の「アミロイド関節症に対する少量ステロイド治療指針」によると
プレドニゾロンであれば1日5mgを連日または隔日投与し
1カ月以上で減量か中止を考慮、とある。
よってAさんの場合もステロイド剤の使用は1カ月程度と考えられ
その後症状が続けばNSAIDsに処方変更になると推測される。


Aさんはステロイド剤の副作用を心配しているが
投与期間が比較的短い上、1日5mg程度であればあまり副作用は起こらない。
長期透析治療による苦痛にも配慮して
なるべく不安を取り除くような服薬指導が望ましい。
ただし、透析患者は免疫力などが低下しているため
感染症や消化性潰瘍、骨障害などには当然注意が必要である。