漢方の考え方と適用方剤

在宅医療と漢方
あきば伝統医学クリニック院長 秋葉 哲生
http://www.kampo-s.jp/magazine2/202/bestchoice.htm


漢方の考え方と適用方剤

1.食欲不振

六君子湯(りっくんしとう)
六君子湯は胃腸機能を助けて気力を益す作用が期待できる.
薬の味も淡味で,後味も悪くないので在宅高齢者に服用しやすい利点がある.
投与量は成人量の1/3〜2/3でよく,必ずしも満量を要しない.
禁忌は特にないが,甘草含有製剤であるので,
フロセミドなどの利尿薬の常用例では投与2週間後に1度
カリウムを検査しておくことが勧められる.


●真武湯(しんぶとう)
真武湯は食欲低下とともに全身状態の衰えが目立つ場合に適当である.
本方は附子を含む製剤であり,新陳代謝を鼓舞する作用を有している.
甘草を含有しないのでカリウムの変動を来すことが少ないと考えられる.

2.排尿障害

●八味地黄丸(はちみじおうがん)
八味地黄丸は加齢に伴う各種の病態に改善効果を示す漢方薬である.
本方が用いやすい一因は甘草が配剤されていないことにあり,
循環器系に原疾患を有する高齢者に電解質異常をもたらさないという利点がある.
加えて利尿作用により下肢や背部の沈降性の浮腫の改善効果も期待できる.

3.便秘

便秘には大黄甘草湯などの大黄配合製剤がしばしば用いられるが,
大黄は寒涼性であり、投与により、しぶり腹になってしまう高齢者も少なくない.
ここでは冷えを伴う高齢者の消化管を温めて便通をつける
という漢方医学的な考え方に立ってそれに用いる方剤を解説してみよう.
温薬による排便はしぶることがなく快便となるが,
作用が穏やかであるという特徴がある.


●大建中湯(だいけんちゅうとう)
消化管を温める第1の方剤は,現在広く用いられている大建中湯である.
大建中湯は見方を変えれば消化管運動促進薬であるので,便秘には好都合である.
消化管運動をもたらす山椒と乾姜が中心的な役目を果たすらしい.


●人参湯(にんじんとう)
人参と乾姜を含む点で大建中湯と共通性がある人参湯は,
やはり胃腸が冷えていると考えられる高齢者の便通を促進する.
食欲も増進する可能性があることも大建中湯と共通している.
またこの2剤は慢性下痢にも用いられ,便性を有形便へと改善する作用を発揮する.
漢方薬の作用が一方向的なものではなく,
双方向性かつ調節作用性であることを伺わせる事例である.

4.褥瘡

●黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)
本方はいわゆる補剤の1つで,ほぼ黄耆と小建中湯とからなっている.
栄養状態が低下した状態に褥瘡は発症しやすいので,
小建中湯で胃腸機能を建て直して栄養改善を図ることは合理的である.
黄耆は肉芽の新生や皮膚の修復に有効であるとして古くから用いられている生薬であり,
人参と並ぶ高貴薬として強力な補気作用を発揮する.
補気作用とは生命力鼓舞作用と理解してもよく,長期臥床の高齢者に必要な要素である.


●紫雲膏(しうんこう)
紫雲膏はわが国の江戸時代の先達である華岡青洲が創方した漢方の外用薬である.
皮膚の瘻孔や不良肉芽を原因とした上皮形成が困難な部位などに盛んに用いられた.