漢方オンラインレッスン:第一章 症状・疾患別漢方治療
https://www.kampo-s.jp/study/basic_kampo/learning/ol_t101.htm
食欲不振・胃もたれ
解説:大野クリニック 院長 大野修嗣 先生
機能性ディスペプシア(FD)
機能性ディスペプシア(FD)はきわめて多くみられる疾患であり、
患者さんの不安・懸念を払拭することが担当する医師の責務であると言えるでしょう。
さらに身体的要因に加えて、ストレスなどの心理的要因も重要であり、
認知行動療法や弛緩療法が役立つことがあります。
漢方医学的治療では心身一如の理念が根幹となっていることから
心身に関わるFDの治療は、漢方のよい適応であるといえます。
それでは、漢方薬による食欲不振・胃もたれの治療を考えてみましょう。
食欲不振・胃もたれに頻用されている漢方薬の一つが六君子湯です。
FDの食後愁訴症候群には早期飽満感と食後のもたれ感があり、
早期飽満感には六君子湯が適応します。
漢方医学的には気虚 すなわち気力の低下、
食べたいという気持ちが薄らいでいる場合によい適応があります。
六君子湯の科学的検討が進み、
食欲増進作用を有する 消化管ホルモンのグレリンの分泌を促す作用や、
胃の適応性弛緩反応を改善する作用なども確認されています。
少し食べるとお腹いっぱいと訴えた場合には六君子湯が適応することになります。
また食後愁訴症候群の食後のもたれ感に対しては平胃散が適応となります。
平胃散は胃もたれが主症状である食欲不振に有用であり、食後の下痢にも用いられます。
西洋薬の消化酵素配合薬と併用されることもあります。
消化酵素配合薬が食物の消化を促し、平胃散が消化管の働きを改善します。
また、体力・気力の低下は軽微、または食欲不振も軽微で、曖気が多い、
あるいは胃のつかえ感が曖気で改善することが多い場合は、茯苓飲が適応となります。
茯苓飲は、食道から胃の蠕動運動を正常化すると捉えると理解しやすいでしょう。
すなわち逆流性食道炎における胃酸の逆流を改善させることが想定され、
H2-ブロッカー、PPI 、P-CABなどの胃酸分泌抑制薬でも
改善が見られない場合には茯苓飲の併用が役立ちます。
そして、食欲不振・胃もたれ感を伴う全身的な体力低下、
倦怠感が顕著な虚弱者であると人参養栄湯が最適です。
食欲不振に対する効果が検討され、
六君子湯と同様に作用機序などの研究が進んでいる方剤です。
漢方医学的には気血両虚が選択の目標となるところが
六君子湯と異なる点であると言えるでしょう。
さらに全身の精神的・肉体的消耗状態が優勢となると補中益気湯が適応となります。
胃腸機能ばかりでなく全身的な生理機能の低下に対応します。
気力・体力を改善することによって食欲不振を改善することから、
効果がみられるまで多少時間がかかることもあります。
``胃もたれ関連症状
続いて、胃もたれ関連症状として嘔気・嘔吐に対する漢方薬をご紹介します。
感染性胃腸炎等に基づく 嘔気・嘔吐・下痢を伴った食欲不振には半夏瀉心湯が適応します。
西洋薬ではドパミン受容体拮抗薬などが用いられますが、
一部は妊婦のつわりには禁忌とされています。
つわりには小半夏加茯苓湯が良く使われています。
小半夏加茯苓湯にさらに陳皮・甘草を配合して胃粘膜の保護作用を追加したのが二陳湯です。
テスト
Q 食欲不振を訴える患者さん。
次のような所見の場合に用いられる処方はどれでしょうか?
81歳。女性。一人暮らし。味覚が低下し、
食欲がないと来院。最近物忘れが気になってきた。
歩くのが不自由となり、ほとんど外出しなくなった。
肌は乾燥して皮脂欠乏性皮疹の状態。
1 六君子湯
2 人参養栄湯
3 茯苓飲
4 平胃散
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