老年疾患における漢方薬の使い方

高齢者の漢方実践セミナー
老年疾患における漢方薬の使い方 ファーストチョイスとその鑑別処方
矢数芳英先生(東京医科大学病院麻酔科 講師)
http://www.tsumura.co.jp/password/magazine/148/index2.htm


高齢者の一般的な頻尿、腰痛に牛車腎気丸

牛車腎気丸は糖尿病性神経障害、慢性の腰痛、下肢のしびれ、夜間頻尿に効果がある
漢方薬で、全身を温め、生理的活動を活性化し、水分代謝を調節する作用を有する。


鑑別処方としては、頻尿をキーワードとした場合
高齢者の一般的な頻尿に牛車腎気丸
尿路不定愁訴(高齢者)、無菌性膀胱炎、胃腸が弱い人に清心蓮子飲
膀胱炎(急性)に猪苓湯を用いる。


腰痛をキーワードとした場合は
高齢者の一般的な腰痛に牛車腎気丸
坐骨神経痛、冷房病に五積散、手足の冷え(しもやけ)に当帰四逆加呉茱萸生姜湯
神経痛一般(慢性)に桂枝加朮附湯
急性の腰痛症に頓服で芍薬甘草湯を用いる。

六君子湯胃もたれ・食欲不振の第一選択薬

六君子湯機能性胃腸症(FD)の突破口と言われ
特に食後のもたれ感、早期膨満感に効果を有する。
六君子湯の適応は、FD以外にも非びらん性胃食道逆流症(NERD
PPI抵抗性の胃食道逆流症(GERD)、咽喉頭酸逆流症(LPR)がある。


鑑別処方としては、胃もたれ・食欲不振に六君子湯
冷えがあり胃腸が弱い人に人参湯
心窩部痛がメインの場合には安中散
ストレス性の心窩部痛には柴胡桂枝湯または四逆散
元来胃腸がとても弱く、下痢しやすい人には啓脾湯を用いる。

止まらない咳には麦門冬湯+半夏厚朴湯

麦門冬湯は潤す、咳を止める効果を有する漢方薬
構成生薬のほとんどが潤す作用のある生薬であることから
潤して咳を止めるというイメージである。


麦門冬湯のかぜ症候群後の慢性咳嗽に対する効果は
臭化水素酸デキストロメトルファンメジコン、ハイフスタン)とほぼ同等であり
服用2日目での抑制効果は、麦門冬湯のほうがより優れ
発現効果もより速やかであったとの臨床試験結果が報告されている。


気管支喘息に対する効果については、鎮咳効果が69.4%という報告がある。
また、シェーグレン症候群に対しては有用度が44.4%で、唾液量の増加が報告されている。
さらに、抗精神病薬による口渇に対しては改善度59.1%という検討結果もある。


以上、麦門冬湯は気道を潤して乾いた咳を止める、乾性咳嗽が適応となり
応用としてシェーグレン症候群、抗精神病薬による口渇、ACE阻害薬による乾性咳嗽に用いる。


コンコン止まらない咳には麦門冬湯+半夏厚朴湯を
咳が長期化して体力が低下している人には麦門冬湯+補中益気湯
という合方も高齢者には有効である。


鑑別処方として、痰が多い場合(湿性咳嗽)には、清肺湯が第1選択となる。
慢性気管支炎や気管支拡張症にも応用できる。
咳や痰が続き眠れない人には竹茹温胆湯を用いる。