漢方オンラインレッスン: 腹痛
大野クリニック 院長 大野修嗣 先生
https://www.kampo-s.jp/study/basic_kampo/learning/ol_t102.htm
https://www.kampo-s.jp/study/basic_kampo/learning/ol_v102.htm
胃・十二指腸の病態を原因とする腹痛の場合の漢方治療
胃・十二指腸の病態に起因する心窩部痛に対しては安中散が適応します。
構成生薬の延胡索・良姜による、胃粘膜に対する鎮痛作用が期待できます。
さらに桂皮がもつ通陽作用が、四肢の冷感を改善します。
縮砂は理気寛胸作用が知られています。
漢方医学的には冷え症を伴い、心窩部痛を伴った神経性胃炎には最適な漢方薬であるといえるでしょう。
食道、胃粘膜などの消化管粘膜に何らかの炎症状態の存在が疑われれば黄連湯が適応となります。
黄連湯の君薬である黄連は、胸中の清熱と腹痛を改善させる効果が期待できます。
漢方医学的には心下痞と心窩部痛が黄連湯の1つの使用目標となります。
次に漢方医学的に胸脇苦満と表現される上腹部やわき腹の重苦しさ、
疼痛などの症状が見られる場合には柴胡剤が適応となります。
この症状が顕著な場合、大柴胡湯が適応となります。
注意点として大黄が含まれていることから、下痢があらわれた場合、漢方薬の変更が必要となります。
また、神経過敏で、煩驚、いわゆるびくびくした様子があれば柴胡加竜骨牡蛎湯が適応となります。
小腸・大腸の病態を原因とする場合の漢方治療
過敏性腸症候群(IBS)を原因とした腹痛に対応する漢方薬としては桂枝加芍薬湯が第一選択薬となります。
桂枝加芍薬湯は様々な処方の基礎になる桂枝湯の芍薬を4gから6gに増量した処方です。
芍薬に含まれるペオニフロリンは鎮痙・鎮痛・筋弛緩作用を有します。
芍薬が増量されることで、腸管の過剰な蠕動運動や痙攣性疼痛が抑制されます。
また桂皮・甘草の組み合わせによって降気作用、すなわち精神的鎮静作用も期待できます。
症状が軽度であれば便秘型、下痢型、交替型にも対応します。
また、痛みが強い場合は芍薬甘草湯を合方することも有用です。
芍薬甘草湯は横紋筋のみならず平滑筋の痙攣性疼痛にも有効です。
便秘型の場合には桂枝加芍薬大黄湯とします。腹痛と便秘の双方に効果が期待できます。
小児の腹痛・便秘には小建中湯が適応します。
小建中湯は桂枝加芍薬湯に膠飴を加味した処方です。
朝の腹痛で不登校になっている場合などには心身ともに改善が見込めます。
腹中の冷えがある腹痛には大建中湯が適応となります。
大建中湯の基礎的検討では腸管上皮細胞・中皮細胞からアドレノメドリンの分泌を促し、
さらにCGRPの分泌も促進させ腸管の血流を改善させるという結果が得られています。
大建中湯が腹痛に無効であれば桂枝加芍薬湯を合方して中建中湯として用います。
冷え・下痢あるいは軟便傾向を伴った腹痛の場合には芍薬と附子などが配合された真武湯が適応します。
憩室炎など炎症状態がある場合では三黄瀉心湯が腸管粘膜の炎症状態を軽減して腹痛を和らげます。
下痢傾向があれば黄連解毒湯とします。
虫垂炎などの炎症を伴った右下腹部痛には大黄牡丹皮湯が役立ちます。
この処方は骨盤内の炎症性の婦人科疾患にも応用されています。
主に左上腹部から左背部にかけての疼痛の訴えがあり、
西洋医学的に「脾湾曲症候群」と診断される場合には四逆散と香蘇散を合方して柴胡疎肝湯とします。