指のしびれ、「手根管症候群」かも

指のしびれ、「手根管症候群」かも 老化と勘違い
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO55912590W3A600C1EL1P01/



夜中や朝になぜか手の指がしびれる。こんな自覚症状があったら、
まずは手根管(しゅこんかん)症候群を疑ってみるべきだ。
毎日の家事や仕事にそれほど影響が出ないからと、放置してしまう人も多い。
ただ、症状が悪化することもある。中には親指の筋肉が落ち、
物をうまくつかめなくなることもあるので注意が必要だ。


都内の70代の女性Aさんが手のしびれに気づいたのは10年前。
最初は朝晩のしびれだけだったが、
やがて日中もしびれが取れず、物を触る感覚がなくなってきた。
「箸やボールペンをよく落とすようになった」。
最初は年を取ったせいだと考えたが、病院で手根管症候群と診断された。


◆特発性で原因不明
一般に手の指にしびれが出る症状の原因には、
脳の血管障害、頸椎(けいつい)の障害、糖尿病がある。
しかしそれとは別に、小指以外にしびれがあるのならば手根管症候群が考えられる。


手根管症候群は手首にある手根管というトンネルに圧力がかかり、
この中を通る正中神経が圧迫されて、手の指にしびれや痛みが症状として表れる。


主に夜中や朝方の寝起きに指がしびれる症状で、
親指、人さし指、中指、薬指にしびれが出るのが
他の障害によるしびれとの大きな違いだ。
多くは両手の指にしびれが起きるという。


ただ、なぜこうした症状が起きるのかという原因はほとんど分かっていない。
日本大学医学部整形外科の長岡正宏教授は
「ほとんどが原因不明の特発性。分かっているのは年配の女性に多く、
妊娠中の女性なども発症しやすい点だ」という。
女性に多いので、ホルモンに関係するという意見もある。


主な症状が指のしびれだけなので、日常生活にそれほど支障はないと思えてしまう。
単なる指のしびれとだけ考え、Aさんのように5年、10年と
長期間症状を放置している人も増えている。
潜在患者数はかなりの数に上るとみられている。


では指のしびれをそのままにしておくと、どういう影響が出るのか。


特発性と呼ばれる場合は、症状はそれほど悪化しないそうだ。
しかし仕事や家事で手や指を激しく使ったり、
手首を骨折したりすると症状が悪化しやすい。
周辺に腫瘍ができたり、長期間の透析により
たんぱく質がたまったりするときも要注意だ。


重症になると
「神経への圧迫が続き、手や指のしびれで目が覚める、
鋭い痛みを感じる人もいる」(長岡教授)。
そのまま放置していると、親指の付け根の筋肉が萎縮し、物をつかめなくなる。
筋力もしびれも完全に回復させるのが難しくなるという。


虎の門病院の中道健一・リハビリテーション科医長も
「年配の患者はしびれに慣れ、あまり強く症状を訴えない場合がある。
老化と勘違いしている人も多い」と話す。実際、症状を自己判断するのは難しい。
朝晩のしびれ以外は、人によって感じ方が違うので症状も様々だ。


手首を曲げる、手のひらをたたくといった判断方法もあるが
「人によってしびれ具合が違う。今は機械を使って
手首の筋肉を動かす信号の伝達速度を計測して客観的に判断する」(中道医長)
のが確実な診断方法。まずは、専門の病院で診断を受けるのが大切だ。





◆軽症なら手首固定
症状が軽い場合は、手首を固定する装具を付ける保存的治療が一般的だ。
手首に過度の負担をかけず様子を見ると、
自然と手根管への圧迫が収まるケースも多いという。


ほかにも手根管ステロイドを注射する方法や
ビタミンB12などの薬剤を処方する方法もあるが、
「重症化している場合は効果が長続きせず、再び発症する人も多い」
(長岡教授)という。


保存的治療の効果が薄い人の場合には手術が必要となる。
特に手首に腫瘍がある場合や透析などが原因の場合は
神経の圧迫がさらに進む可能性があるため、早めの手術が勧められている。


手術は圧迫されている手根管を切り開いて
中の圧力を下げる手根管開放術と呼ばれている。
局所麻酔をかけて手根管の上の靱帯を切って正中神経の圧迫を取り除く。


以前は、手のひらから手首まで最大7センチ程度切る方法が主流だったが、
最近は手の中に内視鏡を入れる「鏡視下手根管開放術」や
手のひらを小さく切る「直視下手根管開放術」が多い。
手の傷も2〜3センチ程度で済むため、傷痕も目立たないで済む。
手術時間も30分程度で、日帰りでできる。


ただ、注意が必要なのは
「手術したからといって、すぐにしびれが消えるわけではないこと」(長岡教授)。
しびれが取れるまで数週間から数カ月かかることもある。
長岡教授は「しびれを長年放置してきたなど重症化していた人は治るまで数年かかる。
完全にはしびれが取れないこともある」と警告する。


中道医長も「手術時間も短く大規模な手術ではないが、
靱帯を切り開くため熟練の技術が必要。
きちんと整形外科の専門医がいる病院で治療を受けるべきだ」と強調する。