パーキンソン病に抗精神病剤が追加された理由
日経DI2004年10月号から2005年9月号に掲載したクイズ
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/di/diquiz/ より一部改変
◆Question
5年前からパーキンソン病薬を服用している70歳の男性Aさんの奥さん
手足が勝手に動く症状がひどくなってきたので、今回、
先生から「もう1種類薬を追加して様子を見ましょう」と言われました。
薬がまた増えるのは、病気がどんどん悪くなっているからでしょうか。
処方せん
メネシット錠100 7錠1日4回 朝食後2錠、昼食後2錠、
夕方2錠、夕食後1錠 14日分
カバサール錠1.0mg 4錠1日1回 朝食後 14日分
シンメトレル錠100mg 3錠1日3回 毎食後 14日分
リスパダール内用液1mg/mL 1mL1日2回 朝夕食後 14日分
※今回からリスパダール(一般名:リスペリドン)が追加になった。
◆服薬指導
パーキンソン病のお薬を長い間飲み続けていると
半数以上の人に薬の副作用によるいろいろな症状が出てきます。
今ご主人に出ている症状も、メネシットというお薬を
長い間服用された場合によく起こる症状です。
(レボドパ誘発性のジスキネジア)
病気が急に悪化しているわけではありませんので、特に心配ないと思います。
今出ている症状を抑えるにはいくつかの治療法があり、
追加になったリスパダールというお薬もその一つですので、
必ず先生の指示通りに飲むようにして様子を見てください。
◆解説
パーキンソン病は、安静時振戦、固縮、無動、姿勢反射障害(体を押すとすぐにバランスを崩す)を四大症候とする原因不明の疾患である。平均発症年齢は約66歳で、国内での有病率は人口1000人当たり約1人とされ、神経変性疾患ではアルツハイマー病に次いで高い。中脳黒質の神経細胞が変性・脱落し、神経終末からのドパミンの放出が減少して発症すると考えられている。進行性の慢性疾患で、根治的治療法は今のところない。
治療は、薬物療法を中心に運動障害などの症状を改善させ、ADLやQOLを向上・維持することが目的となる。具体的には、ドパミンの作用不足を補うレボドパやドパミン作動剤を軸に、塩酸アマンタジンや抗コリン剤などが使われる。
これらの薬物治療がいったん開始されると、ほぼ一生涯継続されるため、薬物の長期投与に伴う副作用や問題症状の発現を常にモニターし、適切な対策を講じていくことが重要となる。中でも、レボドパ製剤の長期使用に伴う薬効減弱、薬効時間の短縮(Wearing off現象)、不随意運動(ジスキネジア)は半数以上の患者に発現するため、特に注意を払う必要がある。
Aさんの場合も、奥さんが「手足が勝手に動く症状」と表現していることから、レボドパ誘発性のジスキネジアを起こしていると考えられる。ジスキネジアは手や足、体などが自分の意思に関係なく勝手にくねくねと動く現象で、病初期からレボドパ製剤を過剰に服用し続けた場合に出現しやすい。
日本神経学会の「パーキンソン病治療ガイドライン」によれば、ジスキネジアの対策として、まずレボドパ製剤の減量を行う。減量が困難な場合には、1回量を減量して頻回投与を試みる。パーキンソニズムが悪化した場合には、ドパミン作動剤の追加・増量を行う。さらに、症状の改善がなく薬物の減量も困難な場合には、高用量の塩酸アマンタジンの追加を試みる。それでも改善しない場合は、チアプリド(商品名:グラマリールほか)やリスペリドン(商品名:リスパダール)の追加が有効とされている。ただし、パーキンソニズムの悪化や眠気の発現に絶えず注意する必要がある。なお、ジスキネジアに対するリスペリドンの保険適応はない。
パーキンソン病の進行に伴うすくみ現象(歩行開始時に足がスムーズに出ない)の場合にはレボドパ製剤の増量が、Wearing off現象にはモノアミン酸化酵素B阻害剤の追加が行われる。