5剤目のSGLT2阻害薬が間もなく登場

5剤目のSGLT2阻害薬が間もなく登場,安全性に関する最新情報も解説
京大・稲垣暢也氏
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/1408/1408077.html



9月初めに発売を控えた国内5剤目のSGLT2阻害薬
カナグリフロジン(商品名カナグル)を共同販売する田辺三菱製薬第一三共が8月27日,
東京都でプレスセミナーを開催。
同委員会の委員の1人でもある京都大学糖尿病・内分泌・栄養内科学教授の稲垣暢也氏が,
SGLT2阻害薬の位置付けおよび安全性に関する最新情報などを講演した。


今年5月に改訂された「糖尿病治療ガイド2014-2015」では,
新たにSGLT2阻害薬はα-GIとともに「糖吸収・排泄調節系」のカテゴリーに分類された。


稲垣氏によると
最近新たにSGLT2阻害薬を投与した患者において尿糖排泄に伴い,
血中グルカゴン濃度の上昇と肝での内因性糖産生(EGP)が見られることが分かってきた
(J Clin Invest 2014; 124: 509-514)。


この現象に関連した有害事象として,同氏はケトアシドーシスサルコペニアを挙げる。
SGLT2阻害薬の投与により
1日当たり約400kcalのエネルギーに相当する尿糖(100g)が排泄され,糖新生が亢進,
脂肪が分解されるため血中および尿中ケトン体の増加が起こると考えられている。


国内の臨床試験では血中や尿中のケトン体上昇が報告されていたものの
ケトアシドーシスの報告はなかった」と同氏。
しかし,先行薬の発売以降,極端な糖質制限食を実施中の患者や
インスリン分泌不全型であるにもかかわらずインスリンを中止した患者,
清涼飲料水を多飲していた患者でのケトアシドーシスが相次ぎ,
6月の勧告で注意喚起が行われた。


「元々糖尿病患者は相対的なインスリン作用不足によりケトン体上昇が起こりやすく,
SGLT2阻害薬の使用とこうした悪条件が重なることで
ケトアシドーシスが発症しうることに注意が必要」と同氏は指摘する。


一方,脂肪と同様に内因性糖産生で生じる蛋白質分解の亢進による骨格筋量の減少
サルコペニア)への懸念から,高齢者ややせ型の患者への同薬使用は不適とされているが,
実際のリスクについては長期の使用実績が得られないと不明との見方を示した。


SGLT2阻害薬は尿糖の排泄促進に伴い体液量を減少させ,
脱水のリスクを上昇させることが知られている。
6月の勧告では,先行薬発売以降,
特に脱水に関連した脳梗塞が複数発生したことが明らかにされている。
また,血液の濃縮による血糖や浸透圧の上昇による昏睡状態(高血糖高浸透圧症候群)も
報告されている。


同クラス薬により血糖以外にも血圧や脂質の改善が見られることから
心血管ベネフィットが期待される一方,
脱水による心血管リスクの懸念は当初から指摘されていた。
カナグリフロジンの米国承認申請時の臨床第Ⅱ・Ⅲ相試験を含むメタ解析では,
投与後30日までの同薬群における複合心血管イベントのハザード比が
プラセボ群に対し6.5倍程度上昇していたことも報告されている。


こうしたことから6月の勧告では,
SGLT2阻害薬の開始当初には脱水への注意が特に必要と指摘。
稲垣氏も「水分補給を欠かさない,高齢者や特に利尿薬を使用している患者への投与は
極力避ける他,夏場は特に注意が必要」と述べた。


SGLT2阻害薬の発売後,新たに注目された有害事象として
皮疹や紅斑などの重篤な皮膚障害がある。
現在,使用されている同クラス薬の中で,発生頻度などに差があるかについて同氏は
「メーカーごとに重篤な皮膚障害の定義が異なり単純に比較できない」と話す。


ただし,あるSGLT2阻害薬で皮膚障害を発症,中止後に軽減したが,
その後別の同クラス薬投与で再度症状が悪化したとの報告もあることから同氏は
「クラスエフェクトの可能性は否定できない」との見解を示した。


SGLT2阻害薬の体重減少作用は肥満の改善につながる好ましい面がある一方,
前出の通り,極端な糖質制限食との組み合わせなどにより
ケトアシドーシスのリスクを高める可能性がある。


稲垣氏は同クラス薬を適正に使用するために重要な点として
「栄養指導が不可欠と考えている」と指摘。
糖新生に伴う脂肪や蛋白質の分解亢進によるケトアシドーシスを予防するためには,
日本で推奨されている1日の炭水化物必要量の下限100gに,
尿糖として排泄されるブドウ糖100gを加えた合計200gの炭水化物が必要との試算を示す。
仮に1日1,400kcalの食事で炭水化物の割合が55%とした場合の炭水化物量は
200gとなることから「普通に食事を摂っている分には大きな問題はないだろう」と述べた。


さらに,SGLT2阻害薬が食欲を亢進させる可能性も報告されている。
特に肥満患者への使用が想定される同クラス薬だが,
肥満例はそもそも食事のコントロールに困難を伴っていることも少なくないと同氏。
また「臨床試験を担当した医師たちから,同薬使用で食欲が亢進し,
甘い物を食べ過ぎた被験者もいたとの話も聞いている」と述べ,
薬剤の有効性・安全性を担保する上でも栄養指導は非常に重要との考えを示した。


以上の点を踏まえ,稲垣氏はSGLT2阻害薬の使用に適している患者像,
投与を控えるべき症例の項目を次のように示した。


【SGLT2阻害薬の使用に適した患者像】
SGLT2阻害薬による血糖低下作用,体重減少作用,
およびその結果としてのインスリン抵抗性改善作用からも,
適している患者像は肥満合併2型糖尿病症例が想定される水分摂取の励行など,
使用上の注意点を遵守できるような理解力のある患者に使用することが望ましい
既存の経口血糖降下薬とは異なるインスリン作用を介さない薬剤であることから,
併用療法による有効性も期待できる〔適正使用委員会の〕*Recommendationでは
「原則として本剤は他に2剤程度までの併用が当面推奨される」としている
*〔〕は編集部で追加


【投与を控えるべき症例】
ケトアシドーシスを来す恐れのある
インスリン分泌不全症例サルコペニアのリスクのある高齢者,
やせ型の症例繰り返す膀胱炎症状があるなど
尿路・性器感染症リスクの高い女性使用初期においては,
心血管系イベントや脳虚血障害などの体液量減少に関わる有害事象が
国内外で報告されており,大血管障害の既往のある症例では投与は慎重に行うべき
ただし,国内治験ではインスリン,GLP-1受容体作動薬との併用試験は行われておらず,
これらの併用についてはなるべく使用を控えるべき
(当日配布資料より,赤字部分は原文通り)