半夏白朮天麻湯

私の漢方診療日誌
平塚共済病院 神経内科医長 中江啓晴
http://www.kampo-s.jp/magazine2/212/rensai.htm
  


今回はめまいを治療しようとしたら、
めまいに加えて歩行障害も認知機能障害も改善した、そんな著効例を提示させて頂きます。


Jさんは73歳男性です。高血圧の既往があります。
今回は歩くとふらふらする、物忘れを主訴に妻に連れられて来院しました。
半年前から歩くと早足になって前につんのめり、ふらふらするようになりました。
めまいがして立つときに何かにつかまらなければ立てなくなりました。
さらには物忘れもするようになりました。


診察室に入ったJさん、妻の介助がないと倒れてしまいそうなくらいふらふらしています。
改訂長谷川式認知症スケール(HDS-R)は17点と認知機能の低下を認めます。
MRIで陳旧性多発脳梗塞を認め、脳血管性認知症
陳旧性多発脳梗塞によるめまい、歩行障害と考えました。


めまいに対して苓桂朮甘湯を1カ月間投与してみましたが効果がありません。
五苓散も無効でした。
そこで半夏白朮天麻湯2P分2朝夕食前を1カ月間投与してみました。


1カ月後の外来です。
Jさんの名前を呼んだところ、ずいぶんとしゃきっとした人が一人で入ってきました。
なんとJさんでした。Jさんの後から入ってきた妻は
「とってもよくなりました。歩けるようになったんです」と言います。
正直、なにが起きたのか分かりませんでしたが、
どうも半夏白朮天麻湯が著効したようでした。
めまいだけでなく、歩行障害も改善しています。
明らかに元気があり、以前と比べて会話もスムーズです。まるで別人のようです。


HDS-Rを施行したところ、24点でした。
めまいのみならず、歩行障害、そして認知機能障害までも改善したようでした。
こちらとしても予想外であり、漢方薬のすばらしさを実感した瞬間でした。


半夏白朮天麻湯の構成生薬は
半夏、天麻、黄耆、人参、白朮、茯苓、沢瀉、陳皮、麦芽、乾姜、黄柏、生姜です。
構成生薬のうち君薬となる天麻には薬理学的に平滑筋収縮作用、抗痙攣作用、
抗不安作用、記憶学習改善作用、神経細胞保護作用などがあるとされていますので、
半夏白朮天麻湯で認知機能障害が改善することもあると思います。