アミノレバン

糖尿病を合併する肝硬変患者とアミノ酸製剤
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/di/diquiz/ より一部改変
 
日経DI 2002年9月号から2003年8月号までに掲載された問題集

◆Question

非代償性肝硬変と診断され、消化器内科に通っている56歳の男性


今回から、夜飲む薬が変わったので、薬の事典で調べてみたのですが……。
アミノレバンENというお薬は、200kcalもあると書かれていました。
私は糖尿病で血糖値が高いので、食事のカロリーに注意するように言われています。
それなのに、こんなカロリーの高いお薬を寝る前に飲んでもいいのでしょうか。
糖尿病がひどくなることはありませんか。


処方せん

リーバクト顆粒 2包

 分2 朝昼食後 14日分
アミノレバンEN 1包

 分1 寝る前 14日分
グリチロン錠 6錠

 分3 毎食後 14日分


薬歴によると、前回まで
リーバクト顆粒(分岐鎖アミノ酸製剤)は1日3包(分3、毎食後)で処方されていた。
アミノレバンEN(分岐鎖アミノ酸製剤)の処方は今回から。


Q.
1日3包(分3)で処方されていたリーバクトが1日2包(分2)に変更になり、
新たにアミノレバンENが就寝前服用で追加処方されたのはなぜか。

◆服薬指導

肝硬変と糖尿病の治療をなさっている方の場合には、
1日の食事を4〜5回に分けた方が良いと言われています。


肝臓には糖をためておく働きがあるのですが、
肝硬変になるとその働きも低下してしまい、
特に夜間は肝臓に糖の蓄えがなくなって、危険な状態になる場合があります。


これを防ぐために、食事の回数を増やし、寝る前にも栄養を補給するのです。
これまで飲んでいらっしゃったリーバクトというお薬にも、
栄養状態を改善する効果はあるのですが、
1包に含まれているカロリーは16kcalしかありません。


一方、アミノレバンENには、約200kcalあることから、
先生は今回から、夕食後のリーバクトの代わりに、
寝る前にアミノレバンENを飲むようにして、
夜間の低栄養状態を防ごうとお考えになったのだと思います。


つまり、このお薬は簡単な夜食に代わるものと言えます。
1日の食事の回数を増やして1回の食事の量を減らすことは、
食後に血糖値が急激に上がることを防ぐ効果も期待できますので、
アミノレバンENの影響で糖尿病が悪化してしまう可能性は低いと考えてよいでしょう。

◆解説

A.
肝硬変の進行に伴う夜間の低栄養状態を防ぐためと考えられる。


 肝硬変とは、多くの肝細胞が線維化し、残存する肝細胞が形成した再生結節が肝全体に広がった状態をいう。肝臓の働きの程度により、代償性肝硬変と非代償性肝硬変に分類され、非代償性肝硬変になると、肝細胞癌や食道静脈瘤、感染症など、生命予後に影響する合併症が出現しやすくなる。

 また、肝硬変が進行すると、肝臓でのアミノ酸代謝異常などが原因となって血中アンモニア濃度が上昇し、「肝性脳症」が出現する恐れがある。肝性脳症とは、重篤な肝機能障害によって誘発される、意識障害などの精神神経症状の総称である。この肝性脳症の発症および進展を防ぐために、肝硬変患者ではアンモニア源となる蛋白質の摂取制限が行われる。また、蛋白質を制限したことで不足する一部の必須アミノ酸を補う目的から、リーバクトやアミノレバンENといった、分岐鎖アミノ酸製剤が使用される。

 一方、肝硬変では糖尿病を合併することも多い。肝臓は糖の取り込みと放出を行うことにより血糖値を調節しており、肝線維化が進んで肝実質機能が低下すると、血糖値の調節機能にも異常を来す。加えて筋肉の減少などにより、末梢組織でインスリン抵抗性が生じるため、食後高血糖を示し、糖尿病を発症しやすくなるとされる。具体的には、肝硬変患者の37〜94%に耐糖能障害が、19〜58%に糖尿病がみられるとの報告もある。

 肝硬変時の肝臓でのグリコーゲンの合成・蓄積能力の低下は、空腹時、特に食事の間隔が空く夜間から早朝にかけてのグリコーゲンの枯渇を招く。その結果、エネルギーの供給が絶たれ、極端な飢餓状態に陥るようになる。ちなみに、肝硬変患者における夜間の飢餓状態は、健常人の三日間の絶食に相当すると言われる。

 こうした夜間の低栄養状態を回避するために、1日の食事を4〜5回に分け、少量の食事を頻回に摂取することが望ましいとされている。一般に朝昼夕食のカロリーを抑え、簡単な夜食(LES食:late evening snack)をとる。1回の食事で摂るカロリーを抑えることで食後の過度な血糖上昇を抑制する効果も期待できる。

 さて、Mさんにはこれまでリーバクトが分3で処方されていたが、今回からこれが分2となり、寝る前にアミノレバンENを服用するという処方に変更された。

 リーバクトは分岐鎖アミノ酸のみからなる製剤で、1包当たり16kcalである。一方、アミノレバンENはペプチドも含有しており、カロリーは1包当たり約200kcalと高い。

 両剤とも肝硬変の治療で広く使用される薬剤であるが、特に肝硬変が進行し、糖代謝異常を来しているような患者では、アミノレバンENが使われることが多い。これは、カロリーの高いアミノレバンENをLES食の代用とするためである。Mさんの処方医も、夜間空腹時の低栄養状態を防ぐことを目的に、アミノレバンENに切り替えたものと推測される。ただし、現在、肝硬変(非代償性のみ)に適応が認められているのは、リーバクトのみとなっている。