肝性脳症

アンモニア血症の治療薬リファキシミン登場
腸で吸収されない抗菌薬で肝性脳症を治療
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/201705/551134.html?n_cid=nbpnmo_mled



2016年11月、
肝性脳症における高アンモニア血症の改善を適応症とした
難吸収性抗菌薬リファキシミン(商品名リフキシマ)が発売された。
腸管で吸収されにくい抗菌薬という、
一面ではデメリットとなる特徴を生かしたもので、
腸内細菌に作用してアンモニアの産生を抑制する作用を持つ。


肝性脳症のハイリスク群となる肝硬変患者は日本に約50万人おり、
その半分弱がいずれ肝性脳症を発症するとされる。
肝性脳症に至った場合、
1年後死亡率が約60%、
3年後が約80%との報告もあり、予後は不良だ。


従来、日本では生活習慣改善や食事制限などで
血中アンモニア値が下がらない場合、
ラクツロースや分岐鎖アミノ酸製剤(BCAA)などを用いた治療が行われてきた。
いずれも効き目は確かだが、下痢などの副作用や不味さなどによって
長期間服用しつづけるのが難しいという問題を抱えており、
新たな治療法が望まれてきた。


そこに登場したのが錠剤のリファキシミン。
内服が容易で、日常生活に差し支えるような副作用も報告されていない。
実は、欧米では20年以上にわたってリファキシミンが使われてきたが、
いよいよ日本でも利用可能になった。

膜透過性が高いアンモニアは細胞内へ移行しやすく、生体毒性がきわめて強い。
アンモニアは、消化管内で腸内細菌が
タンパク質やアミノ酸由来の窒素化合物を分解することにより発生するが、
健康な人の場合、血流に乗って肝臓に運ばれると
毒性の低いグルタミンや尿素代謝・分解される。
ところが、肝臓の線維化が進んだ肝硬変患者では
肝臓内の血管抵抗が高まることで門脈圧が亢進し、
その結果として肝臓を通過しない血流の迂回路ができてしまう(図1)。
こうなると、アンモニアが分解処理されず血中にとどまることになり、
アンモニア血症を呈してしまう。
ちなみに、筋肉中でもアンモニアが生じるが、
筋組織内でグルタミン酸と結合してグルタミンに変換される。


アンモニア血液脳関門を容易に通過することから、
血中濃度上昇に応じて脳内アンモニア濃度が高まり、
神経伝達異常やGABA受容体機能の亢進をひきおこして、
精神、意識、行動にさまざまな異常を来す。
これが肝性脳症で、放っておくと昏睡や死に至ってしまう。

  • 腸管の吸収率は0.4%未満

リファキシミンは、細菌のRNA合成を阻害することで作用を発揮する。
グラム陽性菌およびグラム陰性菌に対して幅広い抗菌スペクトルをもち、
特に腸管内の嫌気性細菌に強い殺菌作用をもつとされる。
難吸収性抗菌薬のなかでも腸管からの吸収率が0.4%未満と突出して少なく、
リファキシミンの添付文書にも
「96.62%が糞便中から未変化体として回収された」とある。
副作用も便秘が2.5%、下痢が1.3%といった程度しか報告されていない。

すでに海外で汎用されていたこともあり、
リファキシミンの肝性脳症に対する有効性を示すエビデンスは豊富で、
ラクツロースにくらべ、血中アンモニアや昏睡度を有意に低下」
ラクツロースと併用することで完全覚醒率を高め、10日以内の死亡率を減少」
「合成二糖類に比べ、肝性脳症の再発を有意に抑制」
「2年以上の長期投与で入院リスクを低下」
「5年の長期投与で、肝性脳症、静脈瘤出血などの合併症発現減少と生存率改善を確認」
といった報告がある。