食道静脈瘤

肝硬変患者に処方されたPPI
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/di/diquiz/ より一部改変


◆Question

59歳の男性、アルコール性肝硬変
この説明書に胃薬って書いてあるけど
おれ、医者から飲み過ぎで肝臓が悪くなって
食道に血管のこぶがあると言われただけで、胃は丈夫なんだよね。
医者からも胃薬が出るなんて聞いてないよ。
このパリエットとかいう薬は何かの間違いじゃないの。

処方せん
パリエット錠10mg 2錠
 分2 朝夕食後服用 14日分
ウルソ錠100mg 6錠
グリチロン錠 6錠
 分3 毎食後服用 14日分


◆服薬指導

食道静脈瘤の破裂を防ぐための薬です。
胃が悪くなくてもお薬は必ず指示通り飲んでください。
また、お酒は肝臓の病気を悪くするだけでなく
食道静脈瘤を破れやすくしますので、やめてください。

◆解説

肝硬変では門脈圧が亢進し胃酸が逆流しやすくなり、食道静脈瘤破裂の誘因となる。
パリエットは食道粘膜を傷つける胃酸を抑制するために処方されたものと考えられる。


 胃、小腸、大腸、膵臓脾臓からの血液は、門脈と呼ばれる1本の太い静脈に集められて肝臓に流れ込む。肝硬変になると、肝細胞が壊死し肝臓内の血管が細く硬くなり血流が悪くなるため、門脈の血流が滞り門脈内部の圧力が高くなる(門脈圧亢進)。その結果、肝臓を通って心臓に戻るはずの血液が、食道の静脈をバイパス(側副血行路)にして無理に通過しようとするため、細い食道静脈が押し広げられて蛇行し、こぶ状の膨らみができることがある。この状態を食道静脈瘤という。

 肝硬変患者の約8割が食道静脈瘤を合併しているとされ、治療せずに放置していると、やがて瘤が破裂し、命にかかわる大量出血を引き起こしかねない。肝硬変では血液凝固因子や血小板が減少しているため、一度破裂すると総出血量が1Lを超えることも少なくない。

 食道壁は筋層が薄いため非常に破れやすく、強い咳をした時や硬い食べ物を飲み込んだ時、重い物を持ち上げようと力を入れた時などに静脈瘤が破れることがある。また、門脈圧が高くなると胃酸が逆流しやすくなるため、胃酸により食道壁が傷つき、静脈瘤が破裂する可能性が高くなる。

 そのほか静脈瘤破裂の危険因子としては、肝障害の進展、細菌感染(エンドトキシン血症)、腹水貯留、飲酒、NSAIDsの服用などがある。

 食道静脈瘤に対する根治療法はなく、ウルソデオキシコール酸(商品名:ウルソほか)やグリチルリチン(商品名:グリチロンほか)などの肝機能改善剤の使用により肝障害の進展を抑える治療が一般に行われる。門脈圧を下げる作用を持つ非選択性β遮断剤や硝酸剤などが併用されることがあるが、その有効性に対する評価は定まっていない。発赤所見が認められるなど出血の危険が極めて高い食道静脈瘤に対しては、内視鏡下で硬化剤(ポリドカノールなど)を注入して静脈瘤を固める硬化療法が行われる。

 また、食道に逆流した胃酸の刺激による静脈瘤破裂を防ぐために、強力な酸分泌抑制作用を持つプロトンポンプ阻害剤(PPI)やH2受容体拮抗剤が使われることがある。

 肝硬変患者に対して肝機能改善剤とともに胃酸分泌抑制剤が処方されているケースでは、胃薬としてではなく、肝硬変に伴う逆流性食道炎に対して処方されている可能性がある。このような患者に対しては、「胃薬」あるいは「胃酸を抑えて痛みを和らげる薬」などと簡単な説明で済ましてしまうと、コンプライアンスが低下して大出血を引き起こしかねない。処方意図を理解し、服薬意義などを入念に説明する必要があるだろう。