鉄道が子どもの成長に必要な理由

鉄道が子どもの成長に必要な理由
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK0502G_V00C12A9000000/



子どもは鉄道が大好きだ。
大阪総合保育大学大学院専任講師の弘田陽介は
「子どもの遊びにおいて、鉄道ほど豊かな広がりを持つジャンルはほかにない」
と指摘する。


電車にはさまざまな車体のデザインがあり
子どもたちはそれぞれの特徴を見出し、美しさを味わうことができる。
実際に乗って、そのスピードを体感し、窓の外の景色を楽しむこともできる。
路線図を見て、電車が走っていく姿を想像することもできるし
玩具で電車を走らせる疑似体験もできる。
子どもの年齢に応じて多様な関わり方があるのだ。


一般的に子どもが電車に興味を持ち始めるのは1歳半〜2歳の頃。
プラレールやNゲージといった玩具は、実際の電車を縮尺し
デフォルメしたものであるにも関わらず
子どもたちはそれらを実際の電車と同じものだと認識する。


初等教育において、この『認識する力』は非常に重要。
形や数、言葉などの違いを認識し、理解する。
この認識力こそ、人間の能力の基礎となる。
電車はそれぞれ名前が違うし、形も色も違う。
普段から電車に関心を持ち、外で電車の走る姿を観察し
家では玩具を通して電車の記憶を反芻する。
現実の電車と玩具の電車がつながる。
それによって子どもの認識力がさらに伸びるのです」。


3、4歳になると、興味の範囲がさらに広がっていく。
電車ごっこをしたり、全国各地の電車の名称を覚えたり。
路線の駅名をすべてそらんじる子もいるだろう。
「これも子どもの成長には大切」と弘田氏。


「鉄道を介して、駅名や漢字、路線図を覚える。覚えたものが役立つというよりも
むしろ幼いときから知性を働かせ、記憶するトレーニングを積んでいたことが
将来、勉強するうえで大きな力になっていくのです」。


電車の場合、車両の名前を次から次へと暗記したり
図鑑を読んで内容を丸ごと頭に入れたりしてしまう子も多い。
また玩具を与えても、一つだけは満足せず、あらゆる車両を集めようとする。
これらの行為は「所有原理」に関わることなのだという。


「所有原理とは自分の世界に没頭し、興味があるものを次々と網羅していくこと。
電車のことを徹底的に調べ、頭に入れたり、玩具をすべて集めようとしたりすることは
まさに所有原理にかかわる心の働きで、自我の形成にもつながる」のだ。
鉄道は裾野が広く、しかも奥が深い。だからこそ所有原理を満たしやすいといえる。


この所有原理、実は学問の原理にも通じるという。
「算数一つ取っても、足し算があり、掛け算があり、割り算がある。
学問には大きな全体像があり、順番に学ぶべきものがある。
順番に学ぶべきものを一つずつマスターし、網羅していくことで全体像を築いていく。
これが学問の原理。鉄道好きの子どもが鉄道に没頭し
鉄道に関することを次々と網羅していく行為は学問の原理にもつながっているのです」。