エビスタ

新しいホルモン剤の副作用を心配する患者
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/di/diquiz/ より一部改変


◆Question

65歳女性
ボナロンは飲み方が面倒だと先生に言うと
「では、お薬を変えてみましょう」とおっしゃいました。
新しい女性ホルモンの薬だそうで、以前、そういう薬を飲むと
乳癌や子宮癌になりやすくなると聞いたことがあるのですが、大丈夫でしょうか。


処方せん
エビスタ錠60mg 1錠  1日1回 朝食後服用 14日分
アスパラ-CA錠200 6錠  1日3回 毎食後服用 14日分

◆服薬指導

エビスタは、女性ホルモンを補う新しいタイプの骨粗鬆症治療薬です。
ご心配のように、これまでの女性ホルモン剤は骨だけでなく
子宮や乳房などいろいろなところに作用するので
乳癌や子宮癌などが発生しやすいといわれていました。
このお薬は骨や血管に対してはエストロゲンの働きを強めますが
逆に子宮や乳房ではその働きを抑える方向に働くため
癌になる恐れは少ないといわれています。
ただし、静脈の血が固まりやすいという副作用があるので
万一、下肢の疼痛やむくみ、息切れ、視力障害、胸痛などを感じたら
すぐお薬を中止して先生にお知らせください。

◆解説

エビスタ(ラロキシフェン)は、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)というカテゴリーに属する薬剤である。SERMとは、各組織のエストロゲン受容体(ER)と結合した後、組織によってエストロゲン作用を示したり、抗エストロゲン作用を示したりする薬剤群のこと。ラロキシフェンはERと結合後、骨に対しては骨吸収抑制作用を発現する一方、子宮や乳房に対しては、エストロゲン依存性腫瘍の増殖を抑える作用をもたらす。

 実際、欧米25カ国が参加し、閉経後骨粗鬆症患者7705人を対象に行われた大規模臨床試験(MOREスタディ)では、塩酸ラロキシフェンを3年間服用することで、腰椎の骨密度が3.2%増加し、新たな椎体骨折の発生が30〜50%低下した。また、乳癌の発症率は同剤投与群で有意に低く、子宮内膜癌や心血管系疾患の発症率はプラセボ投与群と同等だった。

 この組織選択的作用の詳細な機序はまだ解明されていないが、エストロゲン受容体にはERα、ERβという2種類のサブタイプがあり、このサブタイプ間の構造的相違、組織分布の相違が関与しているという説や、ERとSERMとの結合体は、各組織によって転写促進因子あるいは転写抑制因子と複合体を形成するため、異なった作用を発現するという説がある。例えば、骨においては、転写促進因子との結合により、エストロゲン作用の情報転写が促進されて、骨吸収を抑制する一方、乳房などの組織では、転写抑制因子との結合により情報転写が阻止されて、エストロゲンは乳癌の発生に積極的な働きをしないと考えられている。

 また、ラロキシフェンは、1日1回1錠60mgを服用するのに、服用時点や服用方法に制限がなく、食事の影響も考慮せずに服用できる。

 ただし、重大な副作用として、他のエストロゲン製剤と同様、静脈血栓塞栓症に注意する必要がある。国内の治験では1例も報告されていないものの、MOREスタディでは、塩酸ラロキシフェン60mgを3年間投与した群の1.0%に、深部静脈血栓症肺塞栓症、網膜静脈血栓症などの静脈血栓塞栓症が発現したことが報告されている。下肢の疼痛・浮腫、突然の呼吸困難、息切れ、胸痛、急性の視力障害など静脈血栓塞栓症の前駆症状は、常に念頭に置くべきだろう。