MTX使用の原則

「十分量を使う、問題があればまず休薬する」がMTX使用の原則
埼玉医科大学総合医療センターリウマチ・膠原病内科教授 天野宏一氏に聞く
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/special/ptra/interview/201304/529700.html&di=1


メトトレキサート(MTX)は関節リウマチ治療の主役とされ
関節リウマチ患者の疾患コントロールに大きな役割を果たしている。
その半面、間質性肺炎や肝機能障害、骨髄障害などの副作用があり
腎機能障害者には慎重投与、妊婦には禁忌とされるなど、投与に注意を要する。
MTXの有効性と安全性、忍容性が得られない場合の他剤への切り替えなどについて
埼玉医科大学総合医療センター リウマチ・膠原病内科教授の天野宏一氏に聞いた。


MTX治療は6〜8mg/週で開始し、忍容性を確認しながら投与量を増やしていきます。
効果は用量依存性なので、十分量を投与するのが基本です。


16mg/週まで増やすことができますが
私は体重当たり0.25mg/週を上限用量の基準としています。
すなわち、体重50kgの人なら12.5mg/週、60kgの人では15mg/週になります。


欧米では25mg/週程度を上限としていますが
欧米の関節リウマチ患者は平均体重が70kg以上と
日本人患者の平均体重の1.5倍近くありますので
日本におけるMTXの上限値16mg/週という設定は妥当な水準だと思います。


MTXの副作用としては、間質性肺炎、骨髄抑制、感染症、肝障害などがあります。
投与前にこうした疾患があれば、投与禁忌となります。
また、受精卵の分化や成熟に悪影響を与えるので
妊娠中の投与は絶対禁忌になっています。


◆MTXの副作用への対処は診療連携と休薬がカギ
副作用を疑う症状があった場合、MTXはいったん休薬します。
関節リウマチの悪化を心配してMTXを服用し続けるのは危険です。
感染症間質性肺炎
悪化すれば比較的急性に生命に関わる事態に陥りかねないからです。


そのため、平素から患者さんの言うことに耳を傾け
「ちょっと咳が出る」「微熱が続く」といった訴えがあれば
X線画像で評価したり、間質性肺炎のマーカーであるKL-6や
ニューモシスチス肺炎のマーカーであるβ-D-グルカンを測定することが必要です。


MTXは葉酸拮抗薬であり、連用していると葉酸欠乏をきたし
骨髄抑制や肝障害、粘膜傷害を起こします。


こうした症状の予防には葉酸の併用が有効で、週1回、MTXの最終服用から
24〜48時間後に葉酸製剤を服用すれば、骨髄抑制はほぼ予防できます。
また、骨髄抑制が発生した場合には
MTXの解毒剤として知られるロイコボリンを投与
することで回復します。


◆MTX継続不能からの切り替えで最も有効なのは生物学的製剤のモノセラピー
MTXで治療効果が得られない場合
通常の抗リウマチ薬か生物学的製剤とMTXとの併用を行います。
メタ解析によれば、臨床的有効性に関しては両者に大きな差はありませんが
骨破壊の抑制については、生物学的製剤の方が優れています。
そのため、まずMTXと生物学的製剤との併用を検討し
経済的理由などで生物学的製剤を使用できない場合には
通常の抗リウマチ薬との併用を考慮します。


安全性については
生物学的製剤よりも通常の抗リウマチ薬との併用の方が
副作用で中止となるケースが多いことが指摘されています。
生物学的製剤では、感染症がより多いという問題点はありますが
臓器障害はほとんどないのがその理由だと思います。


副作用が出現した場合など、MTXを継続できない症例では
多くの場合、最も有用なのは生物学的製剤の単剤療法(モノセラピー)です。


原段階では、有効性において生物学的製剤を上回る抗リウマチ薬はないと思います。
MTXを使用できない場合、安全性に十分配慮した上で
まずは生物学的製剤の使用を考慮するのがよいと考えています。


生物学的製剤ではありませんが
今年3月に承認されたトファシチニブも単剤での効果が期待されます。
ただし、安全性の確認などはこれからの課題です。


MTXは投与が週単位で患者さんが把握しにくいこと
服用後の気分不快が比較的多いことなどにより
指示通り服用できていないことが多い(アドヒアランスが低い)と言われています。
実際、「薬剤が余っているので処方量を調整してほしい」
という患者さんが少なくありません。


◆当分はMTXが関節リウマチ治療の主役
ここまで述べてきたように
生物学的製剤は関節リウマチの治療体系を変える画期的変革をもたらしましたが
経済的な側面や内服であることなどの利便性を考慮すると
少なくともここ数年はMTXが関節リウマチ治療の主役だと思われます。


このため、間質性肺炎や肝障害などについてきちんとモニタリングをしながら
十分量を使うことが大切です。
患者さんには、発熱や風邪症状など、何らかの不安がある場合
まず休薬し、後で主治医に相談するといった対応を指導するべきと考えています。