シンメトレル

高齢者の意欲低下を改善する薬剤
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/di/diquiz/ より一部改変


◆Question

80歳男性の娘
最近、父が一日中ぼーっとしています。
5年前に起こした脳梗塞が原因のようで
物事のやる気が出るようになるお薬を出してもらうことになったのですが
先生が「このお薬には、ほかにもお年寄りに良い効果がありますよ」と言っていました。
これはどういうお薬なのですか。
お薬を飲む時間が、朝と夕ではなく、朝と昼なのはなぜですか。

処方せん
シンメトレル錠50mg 2錠
分2 朝昼食後 30日分


◆服薬指導

シンメトレルというお薬には、色々な作用があるのですが、その一つが
脳梗塞後遺症で意欲がなくなってしまった状態を回復させるという作用です。
作用の詳しい仕組みはわかっていませんが
薬が脳の中で働いて、脳の神経の機能を活発にするのだと考えられています。
そのほかに、この薬には肺炎を予防する効果があります。
朝昼なのは、夕食後に飲むと
夜に脳が活発になって眠れなくなってしまうことがあるからです。

◆解説

 シンメトレル(アマンタジン)は、脳梗塞後の意欲・自発性の低下の改善に有効とされる薬剤である。作用機序は明らかではないが、シンメトレルには、大脳基底核黒質線条体から分泌されるドパミンを増やす作用があることが知られており、ドパミン作動性神経をはじめとした中枢神経が賦活されるものと推測されている。有効率は、中等度改善以上が約30%、軽度改善以上が約80%で、有効例では、2〜4週間後から意欲向上などの効果が現れる。

 シンメトレルは、通常1日2〜3回分服で使用されるが、1日2回の場合は「朝・昼食後服用」が指示される場合が多い。これは、同剤服用によりドパミン作動性神経が賦活されるため、夕方以降に服用すると、夜間に睡眠障害や幻視などの副作用が起こり得るからである。ただし、睡眠障害の副作用が確認されているのは、主に150〜200mg程度の多量の塩酸アマンタジンを投与した場合である。同剤1日100mgを朝昼投与と朝夕投与で比較した臨床試験では、有効性や副作用に差は認められなかったことが報告されている。

 一方、塩酸アマンタジンは、脳梗塞後遺症以外に、パーキンソン症候群、A型インフルエンザウイルス感染症にも適応を有している。さらに最近では、老人性肺炎に対する予防効果が注目を集めている。

 老人性肺炎の多くは、ドパミンの刺激により迷走神経知覚枝から咽頭や気管に放出されるサブスタンスPの減少が関与していると考えられている。サブスタンスPは、嚥下反射と咳反射に重要な役割を果たしており、減少すると、高齢者に多い不顕性誤嚥による肺炎の原因となる。特に、大脳基底核に脳血管障害を持つ場合には、黒質線条体から産生されるドパミンが減少するため、肺炎が起こりやすい。塩酸アマンタジンは、ドパミン分泌亢進作用により、高齢者の肺炎を減少させる効果が期待できると考えられている。

 実際、大脳基底核に脳血管障害を持つ高齢者を、塩酸アマンタジン1日100mg投与群(n=80)と非投与群(n=83)に分けて3年間追跡調査した試験では、非投与群で22人(27%)に肺炎がみられたのに対し、塩酸アマンタジン投与群では、肺炎発症例は5人(6%)と、およそ5分の1に減少していたことが報告されている。

 なお、同様のメカニズムで、カプサイシンやACE阻害剤も高齢者の肺炎予防に有効である。トウガラシの辛み成分であるカプサイシンは、サブスタンスPを放出させ、またACE阻害剤は、サブスタンスPの分解酵素を阻害し血中サブスタンスP濃度を上昇させる作用があることが知られている。