進行肺がん、新薬続々

進行肺がん、新薬続々 分子標的薬や免疫薬
5年生存率の改善に期待
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肺がんは日本人のがんの中で、最も死亡数が多いがんだ。
年間11万人以上が発症し、7万人以上が死亡する。
かつては、ほかの臓器に転移したり再発したりすると、
治療の選択肢がほとんどなかった。
だが最近では様々なタイプの抗がん剤が登場し、打てる手が広がってきた。
5年生存率も伸びると期待されている。


肺がんの進行を4段階に分け、最も進んだ状態を「Ⅳ期」と呼ぶ。
がんが骨や脳に転移したり、肺や心臓の周囲に水がたまったりしている状態だ。


がん研究会有明病院の西尾誠人・呼吸器内科部長はⅣ期の肺がんについて
「現在は根治はしないが、
治療の選択肢が広がったことで、長く生きられる時代になった」
と話す。


転機となったのは02年に登場した分子標的薬「イレッサ」だ。
Ⅳ期でも延命が期待できるようになった。
分子標的薬は、がんの増殖を促す特定の「ドライバー遺伝子」を持つ細胞だけに働き、
正常細胞には影響しにくい。
あらゆる細胞の増殖を抑える従来の抗がん剤に比べ、
効果が高く副作用は少ないとされる。


分子標的薬は、標的となる遺伝子に変異があるがんに投与する。
イレッサは「EGFR」と呼ぶドライバー遺伝子に変異があるがんが対象だ。
肺がん全体の約6割を占める肺腺がん患者のおよそ半分に相当する。


イレッサの登場以降、分子標的薬が次々と開発された。
国立がん研究センター研究所の河野隆志・分野長は
「肺がんでは少なくとも8種のドライバー遺伝子が見つかっており、
これらをターゲットにした臨床試験が進んでいる」という。
国立がん研究センター東病院
「RET融合遺伝子」というドライバー遺伝子を持つ患者に、
甲状腺がんの分子標的薬が有効なことを治験で確認した。


一方、課題も見えてきた。
投与するうちに薬の効きが悪くなり、再びがんが増殖し始めることが多いのだ。
イレッサは1年〜1年半で耐性が生じる。
12年に承認された「ザーコリ」も、投与から1年ほどで効かなくなる例がある。


こうした耐性がんへの対策も進む。
イレッサ耐性の約6割は「T790M」という遺伝子の変異が原因だ。
タグリッソはこの変異で耐性になったがんの治療薬で、昨年3月に承認された。


血管新生阻害剤と呼ぶタイプの治療薬も09年に登場した。
がんが増殖するのに必要な栄養を取り込むために新たな血管を作るが、これを防ぐ。
ドライバー遺伝子の変異が見つからなかった場合、従来の抗がん剤と併用する。


効果が期待される一方で免疫薬にも、新薬が登場している。
昨年12月に承認された「キイトルーダ」だ。


がん細胞の表面にしばしばみられるPD―L1というたんぱく質は、
がんを攻撃する免疫細胞のたんぱく質に結合し、免疫細胞への防御壁を築く。
この結合を妨げ、がんの防御壁を壊す薬を「免疫チェックポイント阻害薬」と呼ぶ。
15年に、非小細胞肺がんに対する
初の免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」が承認された。


キイトルーダは第2弾で、
オプジーボが従来の抗がん剤による治療が終わってからでないと使えないのに対し、
最初の治療から使える。
ただしEGFRなど特定の遺伝子異常がなく、
50%以上のがん細胞にPD―L1ができていることが条件だ。