ステロイド外用薬は長期間使うと効きが悪くなる。○か×か
常深祐一郎先生(東京女子医科大学皮膚科准教授)
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/tsunemi2/201605/546896.html
問1 ステロイド外用薬を塗ると皮膚が硬くなる?
問2 ステロイド外用薬を塗ると皮膚が茶色くなる?
問3 ステロイド外用薬は長期使用すると効きが悪くなる?
問4 ステロイド外用薬を使用すると中止した後、かえって悪化する?
問5 ステロイド外用薬には依存性があり、一度使うとやめられない?
問1 ステロイドを塗ると皮膚が硬くなる?
ステロイド外用薬は皮膚を菲薄化させて弱くする方向に働き、硬くなることはありません。
皮膚が硬くなるのは「苔癬化」のことであり、
これは湿疹が慢性的に持続すると生じる状態です。
表皮が肥厚し、真皮は線維化して、皮膚がゴワゴワします。
これは湿疹の炎症の持続によって形成されるものであり、
ステロイド外用薬によって炎症が沈静化すると改善します。
では、ステロイド外用薬を塗ると皮膚が硬くなるという迷信は
どうして生まれたのでしょうか。
それは、ステロイド外用薬の副作用を心配し過ぎて、
弱いランクのステロイドを少量(ごく薄く)、
短期間だけ塗るような使い方によるものだと思われます。
弱いランクのステロイドを少量、
短期間のみ使用していては、炎症を十分に抑えられません。
車に例えると、少しブレーキを踏んだだけの状態で、
それでは車は止まらず走り続けてしまいます。
同様に炎症は持続し、結局、苔癬化という慢性状態に行き着いてしまいます。
これが「ステロイドを塗ったら皮膚が硬くなった」という誤解を生んでいるのです。
…… だから正解は「×」
問2 ステロイドを塗ると皮膚が茶色くなる?
まずは、炎症後色素沈着について理解しましょう。
湿疹など皮膚の炎症が続くとメラニン色素が産生され、色素沈着が生じます。
これは、ステロイド外用薬を使用しなくても起こり得ます。
ポイントは、炎症が長く続くと炎症後色素沈着が生じるという点です。
では、ステロイド外用薬を塗ったら色素沈着が起こったとしたら、
それはどういうことでしょうか。
長く経過した湿疹をステロイドで治療すると、紅斑や丘疹、鱗屑などが消え、
それらの皮疹に隠されていた色素沈着が見えてきます。
つまり、ステロイド外用薬を使用する前から生じていた色素沈着が
顕在化するに過ぎません。
早期に湿疹の治療を始めたのにもかかわらず
治療に時間がかかった場合も、同じことが言えます。
治療が長引く原因としては、副作用を怖がって
医師が弱いランクのステロイド外用薬を選んで処方していたり、
症状が少し改善すると患者がステロイド外用薬の使用をやめてしまい、
悪化すると再開するといったことを繰り返すといったケースが挙げられます。
そうこうしているうちに時間がかかってしまい、色素沈着が生じてしまうのです。
これが「ステロイドを塗ったら皮膚が茶色くなった」と捉えられていることもあります。
…… だから正解は「×」
問3 ステロイド外用薬は長期使用すると効きが悪くなる?
ステロイド外用薬は長く使用しても効果が落ちることはありません。
しかし、病変の状態、つまり病気の勢いに対して不十分な使い方だと、
病勢が抑え切れず悪化する可能性があることには注意が必要です。
先の車の例えで言えば、下り坂でブレーキを軽くかけただけでは、
車は加速して坂を下ってしまうというわけです。
つまり、効果不十分なランクのステロイド外用薬を使用し続けていると、
徐々に病状が悪化し、あたかもステロイドの効きが悪くなったように見えます。
これを防ぐには、最初に十分な強さのステロイド外用薬を、
十分な量と期間使用して、しっかりと病勢を止めることが大切です。
…… だから正解は「×」
問4 ステロイド外用薬を使用すると中止した後、かえって悪化する?
ステロイド外用薬で完全に病気の勢いを止められれば、
薬を中止しても悪化することはありません。
しかし、病気の勢いが止まっていない中途半端な状態で
ステロイド外用薬の使用を中止すると、病気は再び悪化し始めます。
火事が起こったとき、完全に消火できていれば水をかけるのをやめても再燃しませんが、
完全に鎮火しておらずにくすぶっている状態で水をかけるのをやめると、
再び火が燃え始めて延焼してしまうのと同じです。
ステロイド外用薬を中止して病状が悪化した場合は、リバウンドではなく、
治り切っていなかったため再燃した状態だと考えた方がよいでしょう。
…… だから正解は「×」
問5 ステロイド外用薬には依存性があり、一度使うとやめられない?
ステロイド外用薬に依存性はありません。
これは上で述べた「ステロイド外用薬は長期使用すると効きが悪くなる?」
「ステロイドを使用すると中止したあとかえって悪化する?」と関連します。
不十分な治療を行うと、病気の勢いは抑えられず、
ステロイド外用薬のランクや使用量を減らすことができません。
また、病気の勢いを完全に抑え切る前にステロイド外用薬を中止すると、
症状が悪化し、再びステロイド外用薬を使用しなくてはならない状態になります。
それらのことから表面的には「ステロイドはやめられない」
という解釈になってしまいますが、正しくは
「中途半端な治療をしているとステロイド外用薬はやめられない」といえるでしょう。
このステロイド外用薬の「依存性」は、
症状があるうちにステロイド外用薬を中止すると悪化するという、
ある意味当たり前のことから派生した迷信(?)といえます。
とにかく、病気の勢いを完全に抑えることが重要なのです。
…… だから正解は「×」