「ステロイドの塗り薬です。あまり使わないでください」!?
中村健一先生(おゆみの皮フ科医院院長)
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/nakamura/201209/526816.html
軟膏、クリーム、テープをどう使い分ける?
普通の手湿疹に最初に使用する外用薬はステロイドだろう。
これには、軟膏、クリーム、テープなどいろいろな種類がある。
皮膚科外来初心者の医師は、何をどう使用すればよいのだろうか?
これを見るとわかるように、「軟膏」はすべてにおいて使用できる。
つまり、「迷ったら軟膏」なのだ。
クリームは手になじみがよく、手荒れには使うことが確かに多い。
しかし、病変が荒れていると、患者は「薬がしみる」と訴えることが多い。
これには「手」という大変敏感な部位が関係しているものと思われる。
クリームは、その作成過程でどうしても
界面活性剤や添加物類の使用が多くなり、皮膚への刺激が強くなってしまう。
吸収性が良いため、何でもない乾燥した病変に対しては使い勝手が良いのだが
こと、荒れた肌には、多くの患者にとって刺激感がネックになる。
ひび割れしている場合はテープか軟膏が良い。
これはひび割れ=亀裂がなぜ痛いか、ということとも関連する。
亀裂とは角質が欠損し、表皮内がいわばむき出しになり、乾燥している状態。
本来湿潤している部位が乾燥しているのだから、それを覆い隠す基剤が良い。
まず軟膏が良いのだが、外用した後、手洗いなどですぐ落ちてしまう場合がある。
そんな時はステロイドのテープを使用すると良い。
ただし、テープは湿潤状態にある亀裂には向かない。
その場合には軟膏を使用し、リント布などで保護する、という処置が必要だ。
「えっ ステロイド?」と言われたら、なんと答える?
ステロイド外用薬を処方しようとすると
「えっ ステロイド?」と患者が身構えた。
こんなとき、あなたならどんな説明をするだろうか?
(1)はい、ステロイドの塗り薬です。
これは皮膚の状態が非常に悪い時に使う強い薬です。
今の症状には使用してもかまいません。
ただし、症状がなくなったら、その後はあまり使わないでください。
(2)はい、ステロイドの塗り薬です。
これは皮膚の状態が非常に悪くなっている時に、正常な皮膚に戻すためのお薬です。
比較的短期間に集中してお使いください。そのような使い方ならば心配ありません。
(3)現在の症状にはステロイドの塗り薬が最も効果的です。
これにはいろいろな副作用があります。でも心配はいりません。
医師の指示通りに使っていれば、問題はありません。
さて、上記3つの文章。実はいずれも正しい。
しかし、これらの説明を聞いて、患者の頭に残る言葉は何であろう?
皮膚科医としての長年の経験から考えるに
患者は以下のように医師の言葉を受け取っていることが多い。
(1)⇒「ステロイドの塗り薬です。使わないでください」
(2)⇒「ステロイドの塗り薬です。短期集中で使います。心配ありません」
(3)⇒「ステロイドの塗り薬です。副作用があります」
(2)の「短期集中」という説明が最も良い。
「短期集中」という表現を使うと、患者の頭に、ステロイド外用薬の特徴
使用法、副作用防止策などが最も合理的に、納得する形で入り込むのだ。
副作用については、説明後、患者から改めて聞かれたら答えれば良い。
あえて、副作用の誤解を時間をかけて解くよりは
「ステロイドはこのように使うものだ」とズバッと説明した方が
患者にとって有益になる。
「軟膏はよく手にすり込む」は正しい?
皮膚科医はつい最近まで、軟膏は皮膚によくすり込むものだ、と教えられてきた。
ところが、皮膚を繰り返し刺激すると、いつのまにか「痒み」に敏感になり
「C繊維」という神経が表皮に入り込むことがわかってきた。
皮膚は「コスってはならない」のである。
ベタベタしない程度に、病変部にそっと載せるだけとする。したがって、すり込まない。
ちなみに外用量には「finger tip unit」という考えがある。
口径5mmのチューブでは、人差し指の先端から第一関節までの長さが「1単位」。
これが手のひら二枚分の範囲に対して適量となる。
この程度をうっすらと手に乗せるだけでよいと説明する。
外来では、軟膏を実際に患者の手にそっと乗せてあげる。
ソフトに、ソフトに。
「塗った後にこすらないで! 無理に伸ばそうとしないで!
皮膚に乗せるだけでいいんですよ」と指導しよう。