SGLT2阻害薬,どんな薬?どんな位置付け?

いよいよ登場のSGLT2阻害薬,どんな薬?どんな位置付け?
東大・門脇孝氏がメディアセミナーで解説
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/1402/1402006.html


ナトリウム/グルコース共輸送体(SGLT)2阻害薬が日本でも登場する。
同クラスの計6製品が国内で承認申請されており,
今年は承認ラッシュとなることが予想されている。


東京大学糖尿病・代謝内科教授の門脇孝氏が同薬を含むSGLT2阻害薬について解説した。


◆SGLT2阻害薬の作用機序は?
SGLTは細胞表面に存在する膜蛋白質で,細胞内へのグルコース取り込みの役割を担う。
これまでにSGLT1とSGLT2などのサブタイプが同定されている。


前者は主に小腸と腎近位尿細管に発現,小腸上皮でのグルコース吸収を担っており,
後者は腎近位尿細管に特異的に発現,腎でのグルコース再吸収を担っている。


健康人では糸球体での原尿濾過の過程でSGLT2あるいはSGLT1により
グルコースは再吸収され,尿として排泄されることはない。


一方,2型糖尿病では代償的にSGLT2の発現レベルとグルコースの再吸収が増加,
高血糖に重要な役割を果たすことが分かってきた。


SGLT2阻害薬はSGLT2の阻害を介して,近位尿細管でのグルコース再吸収を阻害し,
尿中へのグルコース排泄を促進することで血糖を降下させる。


◆体重減少の機序は?他剤併用でも減少する?
SGLT2阻害薬の体重減少作用は,投与早期には浸透圧利尿が,
それ以降は尿中へのグルコース排泄を介した血糖減少に伴う
エネルギー喪失への代償として脂肪が分解されることで生じると考えられており,
クラスエフェクトとみられる(J Clin Pharmacol 2012; 52: 457-463)。


各種薬剤の臨床試験では,こうした作用に関連して
血清脂質プロフィルや血圧が改善することも示されている。


門脇氏は
「われわれの基礎研究では,同薬の投与によって除脂肪組織量(lean body mass)と
総脂肪量(fat body mass)のうち,総脂肪量が減少していた。
主には内臓・皮下脂肪の減少が大きい。
この他,浸透圧利尿による体液量減少も大きいだろう」との見解を示す。


臨床上の体重減少の程度について,同氏は
イプラグリフロジンの安全性評価を目的に行われた
全ての経口血糖降下薬との併用下で行われた臨床試験から
「(体重増加作用のある)全ての薬剤において,
同薬との併用によるHbA1c減少と同時に体重減少が認められている」と述べた。


◆肥満合併患者が少ないといわれる日本人での意義は?
「確かにインスリン分泌能が高く,肥満が高度になるまで
糖尿病を発症することの少ない欧米人と違い,
インスリン分泌能が欧米人の半分程度の日本人では
標準体重あるいは軽度肥満でも糖尿病を発症するという違いがある」と門脇氏。


◆SGLT2阻害薬で注意すべき副作用は?
SGLT2阻害薬で注意すべき副作用として門脇氏が最初に言及したのは
「浸透圧利尿作用に関連した体液量減少」。


同現象はイプラグリフロジンの臨床試験では投与2週間以内に多く報告されているため,
投与初期には特に注意が必要と述べた上で
「同薬投与によりヘマトクリットが治療前に比べ平均2%近く上昇するとのデータもある。
高齢者や脳卒中リスクが高い人では同クラス薬の有用性が副作用の懸念を上回る場合でも
注意が欠かせないだろう」との考えを示した。


次いで同氏が注意すべき有害事象に挙げたのは尿路・性器感染症
糖尿病では一般的に尿路あるいは皮膚感染症のリスクが高まっていることが知られている。
同氏は「同薬により尿中へのグルコース排泄が促進される。
細菌にとっては好ましい環境となりやすい」と説明。
海外の同薬関連試験では同事象は男性に比べ女性に多いことが明らかにされている。


同氏によると日本では海外と異なり,男性での報告頻度が多いのだという。
この違いについて「海外と日本との衛生観念の違い,あるいは
羞恥心から医師に申告しないといった国民性が関連しているのかもしれない。
実際の発症数はもっと多い可能性があり,
婦人科との連携を含めた対応が必要だろう」と述べている。


この他,腎機能低下例では
HbA1c低下に伴い腎機能が悪化することが分かっており,
相当有用性が上回るとしても注意深い使用が求められる」と同氏。


また,加齢による筋肉量減少(サルコペニア)が認められる場合にも注意が必要と述べ,
「こうした患者に同クラス薬を使用する際,炭水化物摂取が少ない状況では
筋肉への影響が懸念されるため慎重な投与を考慮すべき。
同薬使用の際には炭水化物の摂取が極端に減ることのないよう注意が必要」と話した。


なお,同薬のファクトシートでは「使用上の注意」として
重度の肝機能障害例への慎重投与に関する記載もされている。


低血糖は?
イプラグリフロジンの国内第Ⅱ・Ⅲ相臨床試験では
単独使用時においてプラセボ群に比べ,問題となる頻度の低血糖は報告されていない。


また,6種の経口血糖降下薬との併用による検討では,
SU薬およびグリニド薬との併用で他薬との併用時に比べ
低血糖の頻度が高まっているとの成績が示された。


門脇氏はこの要因について
「薬物同士の作用というより,併用薬による低血糖がベースにあるかもしれない」
との見解を示している。


◆SGLT2阻害薬の適応が考えられる患者像は?
門脇氏はSGLT2阻害薬の適応が考えられる患者像として
メタボリックシンドロームのある肥満傾向の2型糖尿病患者,
②既存の経口血糖降下薬で効果が不十分,
③罹病期間が比較的短い
―の3点を挙げる。


①については
「肥満やメタボリックシンドロームがあり,
高齢でなければ比較的サルコペニアが少なく,
血糖や脂肪を減少させる同クラス薬は良い適応となる他,
血圧や血清脂質の低下作用も確認されていること」,


②については「既存の経口血糖降下薬とは異なる機序で,
どの薬と組み合わせても上乗せ効果が期待できる」,


③については「(同薬により)肝臓で脂肪が分解されると,ケトン体が産生される。
ケトン体の産生レベルは体液のpHに影響を及ぼす。
2型糖尿病の罹病期間が長い患者の中には,
インスリン分泌が非常に低い症例も含まれている。
こうした患者ではもともとケトアシドーシスを起こしやすいと考えられ,
同クラス薬投与によりさらにリスクが高まる可能性が除外できない。
そのため,ある程度インスリン分泌能が保たれている患者像が適していると考える」
との見解を示した。


◆投与を注意すべき患者像は?安全性評価には「腹囲測定も有用」の考え
投与を注意すべき患者像について門脇氏は
①高齢者,
②脳血管障害既往例,
③痩せた患者,
④尿路・性器感染症の既往がある患者,
⑤罹病期間の長い患者
―の5点を挙げた。


また,同薬による脱水や体重減少を評価する1つの方法として
「体重やBMIの評価と同時に時々腹囲を測定すること」を勧めた。


その意義については
「腹囲が減っていればおそらく脂肪が減っている,
腹囲の減少がなく体重が減っている場合には
脱水や筋肉への影響を考えなくてはならないだろう」と説明している。


◆これから6剤が登場するSGLT2阻害薬の使い分けは?
DPP-4阻害薬に比べSGLT2阻害薬では
「薬剤間の違いは非常に少ないのではないか」と門脇氏。


違いがあるとすればSGLT1への作用の程度が考えられると話した。
ただ,SGLT1への作用があると良いのかという点については現時点で不明で,
「SGLT1への作用があると,尿糖の再吸収をより抑制できるから
HbA1cの下がり方が大きいという考え方もある一方,
消化器系の副作用が懸念されるとの考え方もある」と述べ,
今後のエビデンス蓄積が待たれると展望を示した。