美人は性格がいい(と私は思う) 俵万智
http://www.nikkei.com/access/article/g=96959996889DE1EBEBE0E1E2E7E2E0E5E2E1E0E2E3E0979EE382E2E2
友人の一人に岡部まりさんがいる。
彼女とはもう、20年近い付き合いだ。
「あなたは、なんで美人とばかり友だちになるの? いっつも引き立て役なんだから」
と母がため息をついたことがある。
中学のときも、高校のときも、一番の仲良しは、学年で一番の美人だった。
別に美人をねらったわけではない。
が、気がつくと、結果としてそうなのだ。
気が合うし、 性格のいい人が多い。
この「美人は性格がいい」という仮説(?)は
岡部まりさんと友だちになって、私のなかでは確信に変わりつつある。
世の中の人は、あまりに美しい人を見ると
せめて性格が悪いと思いたいかもしれないが
残念ながら、美人は性格が悪くなる確率が非常に低いのです。
性格が悪くなる大きな要因として
「人の悪意を受ける」ということがあると思うのだが
美人の場合、この悪意を受ける場面がとても少ない。
まりさんと一日を過ごしていると
「ああ、世の中のひと(特に男性)は
美人にはこんなに優しいのか」としみじみ感じる。
105円のガムを買って一万円札を出そうが
夜中にタクシー拾ってワンメーターの行先を告げようが、誰も嫌な顔をしない。
それどころか、コンビニの店員さんも、タクシーの運転手さんも
なんだかウキウキした笑顔になっている。
劇場に行こうとして迷ったとき、向こうから歩いてきた人に道を尋ねたら
「いま、そちらに僕も行くところだったんです!ご一緒しましょう!」と言って
彼はくるりと体の向きを180度変えた。あんた、向こうからきたんちゃうんか
と心のなかでツッコミを入れながらも、ありがたく道案内してもらったことを思い出す。
人間、誰しも優しい面と意地悪な面を持っている。
そして美人に遭遇した場合、多くの人は優しい面を彼女に向ける。
みんなに優しくされれば、みんなにも優しくなれるのが人というものだろう。
結果、私の仮説にたどりつくというわけだ。
2012/03/28 日経新聞夕刊