肝疾患患者の3人中1人に全身の痒み

肝疾患患者の3人中1人に全身の痒み
「体がだるい」「手足がつる」に並ぶ3大症状に
https://medical-tribune.co.jp/news/2016/0319500492/



肝臓は障害が起こっても症状が現れにくいとされ,「沈黙の臓器」と呼ばれている。
しかし,実際には肝炎や肝硬変,肝がんといった肝疾患にはさまざまな症状を伴う。
そのうち,意外に多いのが全身の皮膚の痒みだ。
肝疾患の中でも患者数が最も多いC型肝炎ウイルスHCV)を原因とした肝疾患では,
「体がだるい」「手足がつる」に次いで
「体が痒い」ことを自覚症状として挙げる患者が多く,
これらが3大症状となっているという。


虎の門病院肝臓センター分院長の熊田博光氏と
東都医療大学ヒューマンケア学部教授の鈴木剛氏が
「知られていない肝臓病の痒み」をテーマに講演。
肝疾患患者の実に3人に1人が痒みに苦しんでいる実態を紹介し,その対策を示した。


◆肝疾患患者に痒みの有無を確認する医師は3割のみ
肝炎や肝硬変,肝がんなどの肝疾患患者で
比較的高頻度に見られる症状に,痒みが挙げられる。
特に痒みの発現率が高いのは原発性胆汁性肝硬変(PBC)で,
痒みを訴える患者の割合は7割超に上ったとの報告
Acta Derm Venereol 2008; 88: 34-37)もある。


一方,肝炎でも痒みの自覚症状がある患者は多い。
鈴木氏によると,肝炎患者2,138例を対象に
日本肝疾患患者団体協議会が実施した2010年の調査では,
患者が訴える自覚症状として最も多い3つの症状に
「体がだるい」(25.5%)や
「体力が低下」(22.9%)と並んで
「皮膚の痒み」(22.4%)が入った。


また,熊田氏が所属する虎の門病院の肝疾患患者342例を対象とした調査でも,
痒みがある患者の割合はPBCで54.5%と最も高かったが,
C型肝炎やアルコール性肝炎でも30%を超え,
肝疾患全体では35.7%に痒みがあることが分かったという(表)。


このように肝疾患患者の3人に1人に痒みがあるにもかかわらず,
肝疾患の治療に携わる医師が
患者に痒みの有無について確認することは一般的ではないようだ。
鈴木氏によると,全国の肝疾患専門医および
消化器内科・一般内科,皮膚科の医師計300人を対象とした調査では,
肝疾患患者の掻痒症に対する薬剤の処方例のうち医師が
痒みの有無を確認した例は3割にとどまり,
残る7割は患者からの訴えに応じて処方されている実態が明らかになった。


肝疾患による痒みの特徴は,
「見た目には異常がなくても痒い」
「全身が痒くなる」
「掻いても痒みが治まらない」
「抗ヒスタミン薬や鎮静薬などが効きにくい」など。
また,肝疾患による痒みは,老人性皮膚掻痒症とは異なり,
全ての年齢層で見られることも分かっている。
「全身性の痒みは活動性や睡眠を妨げ,QOLにも大きな影響を及ぼすため,
患者にとっては極めて深刻な症状であることを認識すべきだ」と両氏は強調した。


◆昨年5月から掻痒症改善薬が使用可能に
肝疾患による痒みは,アレルギーや乾燥肌による末梢性の痒みとは異なり,
中枢性の痒みに分類される。末梢性の痒みにはヒスタミンが,
中枢性の痒みにはβ-エンドルフィンと呼ばれる内因性オピオイドが関与しているとされる。
このことが,肝疾患による痒みには抗ヒスタミン薬や保湿剤,
ステロイド外用薬などを用いた従来の痒みに対する治療が効かない理由だと考えられている。


従来治療を行っても改善しない慢性肝疾患患者の痒みに対しては,
昨年(2015年)5月に掻痒症改善薬のナルフラフィンが使用できるようになった。
同薬は選択的オピオイドκ受容体作動薬で,
ヒスタミン薬や抗アレルギー薬などとは異なる作用機序で痒みを抑え,
従来の治療薬では改善しにくい痒みにも効果を発揮するとされている。
熊田氏は,同院の肝疾患患者103例(中央値73歳,41〜89歳)における
同薬の治療効果についても報告。
Visual Analogue Scale(VAS)で評価した痒みの変化量が100%に達し,
完全に痒みがなくなった患者が複数いる一方で,
0%と全く効果が得られなかった患者もいたとの結果を示し,
「今後は同薬による治療効果を左右する要因を明らかにすることが検討課題だ」と述べた。