http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/di/diquiz/ より一部改変
◆Question
46歳の女性。
このごろ顔の火照りやのぼせがあって体調が悪く
精神的にもイライラ、くよくよしていました。
それで病院に行ったら更年期障害と言われて
ホルモン補充療法を始めることになったのですが、実は、気になることがあります。
以前ピルを飲んでいましたが、子宮癌になりやすくなると聞いてやめました。
今回のお薬も女性ホルモンだそうですが、大丈夫ですか。
また、ピルと同じように避妊の効果もあるのでしょうか。
処方せん
プレマリン錠0.625mg 1錠
レニベース錠5 1錠
1日1回 朝食後 28日分
ヒスロン錠5 0.5錠
1日1回 朝食後 12日分、のち休薬
◆服薬指導
避妊で使うピルとホルモン補充療法の薬は
ともにエストロゲンなどの女性ホルモンを主成分としています。
子宮癌には子宮頸癌と子宮内膜癌の2種類があり
低用量ピルを服用していると、なりやすくなるといわれているのは子宮頸癌です。
一方、今回のこのプレマリンは単独で長期間飲み続けると
子宮内膜癌が発生しやすくなるといわれていますが、ヒスロンを一緒に使用することで
薬を飲まない人と同じか、それ以上に子宮内膜癌の発生を抑えます。
これらの薬は更年期障害への有効性が高く
また、このプレマリンに入っているエストロゲンはピルの6分の1くらいしかありません。
ホルモン補充療法では避妊の効果は不十分だと考えられます。
◆解説
これらの更年期障害に対して有効な治療法が
エストロゲン(卵胞ホルモン)欠乏を補うホルモン補充療法(HRT)である。
顔の火照りやのぼせといった血管運動神経症状ならば通常2〜4週間の治療で改善し
3カ月間の投与で血管運動神経症状の84.2%、憂うつの47.3%が改善した
などの報告がある。
エストロゲン単独投与を長期間続けると子宮内膜癌の発症リスクは増大するが
現在のHRTでは少量のプロゲストーゲン(黄体ホルモン)を併用投与することにより
HRTを受けていない女性と同等かむしろ若干低くなるまで減少する。
一方、ピル(経口避妊剤)は確実な避妊効果を得る目的で使われる
エストロゲンとプロゲストーゲンの合剤である。
現在、血栓症などの副作用が少ない、エストロゲン含有量50μg未満の低用量ピルが普及している。
ただし、低用量ピルでは
子宮頸癌の発症リスクが服用しない場合に比べて1.3〜2.1倍上昇してしまう。
なお、子宮内膜癌については、HRTと同様に発症リスクが減少するといわれている。
低用量ピルとHRTは同様の女性ホルモン剤を用いるため混同されやすいが
薬剤の種類や作用の強度は互いに異なる。
HRTでは、妊馬尿から抽出された天然の結合型エストロゲン(CEE、プレマリン)が主に使われる。
これに対して、低用量ピルではCEEに比べ生物活性が極めて高い
合成エストロゲンのエチニルエストラジオール(EE)が使用されている。
実際、エストロゲンに反応する血中マーカーの変化率から相対力価を算出すると
EEはCEEより125倍以上高い。
よって、ホルモン補充療法の標準投与量である0.625mgCEEの力価は5μgEEに相当し
低用量ピル1錠は30〜40μgのEEを含有するので、プレマリンに含まれる0.625mgCEEは
これの6分の1〜8分の1に当たると考えられる。
プロゲストーゲン剤の種類にも違いがあり、低用量ピルでは
排卵抑制作用の強いエストラン系やゴナン系の薬剤が用いられるが
HRTでは排卵抑制作用は弱くとも子宮内膜の増殖を抑えるプレグナン系の薬剤が使われる。
したがって、ホルモン補充療法の薬剤では避妊効果は不十分だと考えられる。