コロナワクチン、有害事象対策と未知の副反応
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日本感染症学会ワクチン委員会委員長
鹿児島大学大学院微生物学分野教授 西順一郎先生
- mRNAワクチンとウイルスベクターワクチンの違いは?
トジナメラン(商品名コミナティ:ファイザー製)は、
SARS-CoV-2の表面にあるスパイク(S)蛋白質をつくり出す設計図となる
mRNAをキャリア分子である脂質ナノ粒子で包んでカプセル化したものだ。
SARS-CoV-2はヒトの細胞に侵入する際にS蛋白質を利用して感染するが、
mRNAワクチンを接種すると体内でS蛋白質に対する抗体を産生して、ウイルスの侵入を防ぐ。
ウイルスの遺伝子の構造を分析できれば、早期に開発に着手できるという特徴がある。
従来の感染症のワクチンのように活性を弱めたウイルス(病原体)を使っていないので、
ウイルスに感染するリスクはないという利点がある一方で、RNAは構造が不安定なため、
超低温(ファイザー製は-60~90℃、モデルナ製はー20±5℃)での輸送・保管が必要になる。
一方、別のタイプのウイルスベクターワクチンの国内導入、供給も見込まれている。
ウイルスベクターワクチンは海外でエボラ出血熱のワクチンとして実用化されており、
mRNAワクチンとは仕組みが異なる。
アストラゼネカ製では、増殖できないように遺伝子を改変した
チンパンジーのアデノウイルスにS蛋白質の遺伝子を組み込んだ
組み換えウイルスを使用している。
ウイルスを運搬役として使っているのが特徴で、
S蛋白質をつくり出す遺伝子を標的とする細胞内まで効率的に到達させる仕組みだ。
2~8℃と通常の冷蔵庫で保管が可能だ。
西氏はウイルスベクターワクチンの副反応の特徴について
「アナフィラキシーは多く報告されておらず、
mRNAワクチンに比べて発熱などの副反応も少ないといえるのではないか」
と説明する。
だが、弱点もある。
増殖はできなくてもアデノウイルスには細胞内に侵入して感染する力がある。
西氏は「現時点では体内でウイルスは増えないと言われているが、
感染力のあるウイルスを体内に入れるため、接種例を長期的にフォローする必要がある。
最も懸念されるのは、体内に入ったベクターのウイルスに対して抗体ができ、
数カ月から数年後の再接種で効かなくなる可能性がある」と説明。
「mRNAワクチンにはこうした懸念はないが、
ウイルスベクターワクチンは繰り返し接種することで効果が失われないか今後検証が必要だ」
と指摘した。
- アナフィラキシー発現率は米国の18倍、十分注意が必要
臨床試験で示されたワクチンの有効率は、
モデルナ製ワクチンはファイザー製と同様、臨床試験では95%程度。
一方、アストラゼネカ製や国内で治験中の
ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)製のウイルスベクターワクチンは
約70%とmRNAワクチンよりやや劣る。
西氏は、従来の感染症のワクチンとSARS-CoV-2ワクチンの有効性の違いについて、こう説明する。
「インフルエンザワクチン(不活化ワクチン)は流行する株にもよるが、
近年有効率は30~70%、平均50%程度(発症リスクを2分の1に抑える)で推移している。
それに対し、トジナメランは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発症リスクを
約20分の1に抑える有効率を示し、予想をはるかに上回る効果を示した。これは驚くべきこと」
と高く評価する。
気になるのは安全性だ。国内外のトジナメランの臨床試験では、
一過性の副反応がインフルエンザワクチンなど従来のワクチンより強く発現することが示され、
国内の接種例でも特に2回目接種時に発熱、倦怠感などの頻度が高いことが報告されている。
ただ、発熱や接種部位の腫れ、疼痛などの副反応は
免疫を活性化させる反応が起きていることの裏返しであり、
免疫機能が上昇し、効果が現れていることが示唆されるという。
よって、副反応が強く現れた人では、強い免疫が獲得されている可能性が高いとみられる。
西氏は「副反応の症状の大半は1~2日で改善しており、
アナフィラキシー以外は重篤な副反応の報告がない」ことを挙げた上で、
「人類史上初となるmRNAワクチンであるため、
われわれ感染症の専門家の間でも安全面について心配していたが、
比較的安全に接種が進んでいるのではないか」との見方を示す。
- アナフィラキシーは若年・中年を中心に発現
アナフィラキシーの原因として有力視されているのが、
mRNAの脂質ナノ粒子の安定化のために使われるポリエチレングリコール(PEG)である。
PEGは、腸内検査時に用いる腸管洗浄剤の主成分であり、
経口薬や外用薬、点眼薬など医薬品の添加物としても用いられている。
保湿など目的に化粧品にも含まれていることから、
医薬品や化粧品に対するアレルギーの既往がある人、
アレルギー疾患、喘息患者で多く発症していると推測されるため、
西氏は「予診でそれらの人を事前に把握し、接種後は十分観察する必要がある」との考えを示した。