抑肝散

イライラから解放されたときの片頭痛
岡部竜吾先生 伊那市国保美和診療所 所長
http://www.kampo-s.jp/web_magazine/back_number/294/rensai2-294.htm



症例 40 代、女性
主訴:片頭痛
職業:外資系企業管理職


現病歴:高校生の頃から拍動性頭痛が始まった。
トリプタン製剤の使用頻度を減らしたいと、
ほかの漢方外来を受診し、呉茱萸湯を処方されたが効果はあまりなかった。
別の漢方処方を希望し当科を受診した。
仕事はかなりストレスフルで時間との戦いのため、いつもイライラしている。
他国との折衝などで仕事は深夜に及ぶこともあり疲労している。
パソコンのモニターを見ている時間が長く、
眼の奥が痛み、肩こりにも悩まされているという。
プロジェクトがひと段落した後や、休日前夜になど
仕事から解放されると片頭痛の発作をおこす。


華奢な体格で、腹壁はあまり厚くないが上腹部の腹筋の緊張が高い。
臍傍にて大動脈の拍動を触知した。肩甲骨周囲の肩こりを認めた。


経過:比較的華奢な体格で日常の緊張と不安が強く、
そこから解放されると生じる片頭痛であったため、
普段の緊張と不安を少しでも緩和したいと考え、
抑肝散7.5g/ 日 分3 を処方した。
抑肝散を内服すると仕事中のイライラが緩和されたように感じ、
部下を叱ることが少なくなった。
そのかわり食後の眠気や倦怠感を自覚するようになった。
睡眠薬の成分が入っているのではないか?」と疑い、
処方の中止を訴えられたが、緊張が取れているから生じるのだと説明し、
もう少し我慢して飲んでもらうことにすると、
2 週間ほどで眠気は無くなった。
2 か月ほどすると、
休日前夜に片頭痛の発作がおこっていないことに気付くようになった。
仕事に対する受け止め方が穏やかになったため内服を継続している。


抑肝散(よくかんさん)
1. 処方の指標となる症候:
  緊張と不安、怒りとイライラ、目の奥の痛み、肩・背中の凝り。
2. 体質:虚弱から中間
3. 処方の解説と注意点
 釣藤鈎(ちょうとうこう)と柴胡(さいこ)でイライラをとり、
 当帰(とうき)と川芎(せんきゅう)で血虚・瘀血に、
 白朮(びゃくじゅつ)と茯苓(ぶくりょう)で胃腸の気虚に対応する。
 もともとは小児の不安・夜泣きなどに対し創薬されたが、
 現在では小児から高齢者まで広く用いられ、
 認知症のBPSD に対しても使われる。
 甘草(かんぞう)含有処方のため、
 血圧上昇、Na 貯留、血清K 低下に注意が必要である。


まとめ
緊張から解放されたときにおこる片頭痛では、
普段の緊張を和らげることで発作の予防につながることがある。
過度の緊張に順応していたせいか薬の効きはじめには、
眠気や倦怠感を感じることがあり、
患者によっては「睡眠薬が入っているのではないか?」と疑うものもいるが、
服薬を継続すると、たいていは徐々に慣れてくる。