見直される漢方

科学の力で見直される漢方
http://sankei.jp.msn.com/life/news/110303/bdy11030310510000-n1.htm



水戸市の太田さんは4年前、認知症を発症した母親の介護をした。
「幻覚を見てわけの分からないことを言うようになった。
会話が成立せず、介護する私が参ってしまいそうだった」と振り返る。


主治医から最初に処方されたのは西洋薬。
症状がかえって悪化したため、次に処方したのが漢方薬の「抑肝散」。
1カ月後には幻覚などの症状はうそのように治まった。


医療現場でいま、漢方が見直されている。
長年の経験を基に処方されていた漢方に、科学の光を当てることで
新たな薬効が見つかっているのだ。抑肝散もその一つだ。


認知症の治療では、今や抑肝散はなくてはならない薬となっている」。
そう話すのは筑波大の水上准教授。
認知症を発症すると、8割以上の人にBPSD(幻覚、妄想、興奮、攻撃行動など)
と呼ばれる症状が出現する。その治療に最近、抑肝散が広く使われるようになっている。


抑肝散は、日本で江戸時代から子供の夜泣き薬などとして使われてきた。
それがここ数年の研究で、興奮を引き起こす脳内物質を制御する効果があることが判明。
BPSDへの有効性を証明する研究も相次いだ。


ツムラによると、平成16年度には1億4500万円程度だった抑肝散の売り上げは
21年度には20倍の約31億円にまで急増。同社の主力商品の一つへと“大化け”した。


慶応大医学部漢方医学センターの渡辺賢治診療部長は
「一つの薬にいろんな有効成分が含まれているのが漢方の最大の利点。
高齢者になれば複数の症状が出てくる。それらすべてに西洋薬を使えば
何十種類も薬を飲まなければいけないケースもある。漢方は原則1つの薬で対応できる」と話す。


抑肝散以外でも、外科手術の後に腸の働きを改善する「大建中湯
がんの症状を緩和する「牛車腎気丸」、インフルエンザの症状を抑える「麻黄湯」なども
医療現場で活躍する場面が増えている。
IMSによると、漢方薬の国内市場は10年で1・3倍に成長。
厚生労働省も昨年2月、漢方薬などの有効性を検証するプロジェクトチームを設置
検討を進めている。


認知症で失われた記憶を、漢方薬で回復させる研究も進められている。
認知症は進行を遅らせる薬はあるが、記憶を回復させる薬はない。


研究をしているのは富山大の東田准教授。注目したのは「加味帰脾湯」。
不眠症などに使われるが、古い文献に健忘症への効果が期待できる内容が書かれていた。
培養した脳の神経細胞に同薬を投与すると、数日後に神経回路が再構築される様子が確認できた。
認知症マウスを使った実験でも、投与から2週間で健康なマウスと同程度にまで記憶力が回復した。