漢方生薬、記載のない重大リスクも

漢方生薬、記載のない重大リスクも
発がん、流早産の危険性に予防措置を
https://medical-tribune.co.jp/news/2017/0802509767/
https://medical-tribune.co.jp/mtpronews/1407/1407001.html


筑波大学名誉教授の内藤裕史氏は、第39回日本中毒学会の特別講演で
「添付文書では注意喚起されていない漢方生薬の発がん性、
流早産・不妊・先天奇形の可能性がある医療用漢方製剤が17種あり、
これらの危険性について周知させ、直ちに予防的措置を取るべき」と述べた。


◆特別な注意喚起はない
1976年に漢方生薬のエキス剤が安全性試験の審査なしで健康保険の適用となって以来、
生薬の染色体毒性に関心が払われることなく現在に至っている。
内藤氏は「近年、漢方生薬の副作用として、
生殖毒性と直接結び付く発がん性が明らかになってきた」と述べた。


添付文書の「使用上の注意」に
"流早産の危険性(可能性、恐れ)がある"と記載されている生薬は、
大黄(ダイオウ)、牡丹皮(ボタンピ)、桃仁(トウニン)、
牛膝(ゴシツ)、芒硝(ボウショウ)、紅花(コウカ)の6種である。
6種のうちいずれかを含有するのは全医療用漢方製剤(148製剤)中30製剤(20%)ある。
6種の生薬の添付文書では、
子宮収縮作用、臓器や胎盤の充血作用、子宮緊張亢進などにより
"流早産の危険性がある"とされているが、いずれも根拠は不明であった。


これら6種の生薬を成分として含む一般用市販薬はさらに多く、
979種に上る。これらの「使用上の注意」には
「妊婦または妊娠していると思われる人は服用前に医師、
薬剤師または登録販売者に相談してください」とあるが、
いずれも第2類医薬品の添付文書に記載されているもので、
6種の生薬の危険性について特別な注意を喚起するものではない。


◆TopoⅡ阻害によるDNA傷害が原因
内藤氏は「添付文書に含まれない部分に発がん性と染色体毒性が潜んでいる」と述べた。
2010年にMaらが黄連(オウレン)の毒性成分について
ベルベリンをはじめとするベルベリンアルカロイドと特定した
(J Ethnopharmacol 2010; 128: 357-364)。
黄連はキンポウゲ科オウレン属植物の根茎で、ベルベリンを4.2%以上含む。


米国で売り上げが急増していた民間薬ヒドラスチス根(キンポウゲ科植物の根茎)
には問題となるベルベリンアルカロイドが含まれている。
米国立環境衛生科学研究所(NIEHS)と米国国家毒性プログラム(NTP)の試験により、
ヒドラスチス根の粉末はラットとマウスに肝細胞腺腫、肝細胞がんを発生させ、
明らかな発がん性が認められた。


ヒトのベルベリン代謝齧歯類と類似しており、
発がん機序は共通すると見られている。
そのため、NIEHSの報告ではヒドラスチス根は肝がんの外因性原因物質である
①アルコール②塩化ビニル③アフラトキシン−に続く第4の物質として、
他の要因との相乗作用について調査する必要があるとされた
(Toxicol Pathol 2011; 39: 398-409)。


米国立毒性研究センター(NCTR)は、
ベルベリンの発がん機序について
「トポイソメラーゼ(Topo)Ⅱの阻害によるDNAの損傷が原因で、
損傷の程度はベルベリン濃度と直接相関する」と報告した。
TopoⅡの阻害作用はベルベリンが最も強力で、
次いでパルマチン(ベルベリンアルカロイド)である。


◆黄連にはベルベリンもパルマチンも
TopoⅡはDNAの複製の際に生じるねじれを解消するために
二本鎖DNAを切断、再結合する。
この機能が傷害されるとDNAは著しい損傷を受ける。
その結果、細胞分裂は細胞周期のDNA合成準備期
または細胞分裂準備期で停止する。二重鎖DNAの再結合が阻害されるため、
細胞はアポトーシスを起こす(Cancer Chemother Pharmacol 2008; 61: 1007-1018)。


黄連とヒドラスチス根はともにキンポウゲ科の植物で、
発がん成分(ベルベリンアルカロイド)も共通しており、
発がん性も同様と考えられるが、黄連の方がより危険であるという。
黄連にはヒドラスチス根には含まれないパルマチンが含まれており、
ベルベリン含有率もヒドラスチス根(3.89%)より黄連(4.2%以上)で高い。
ベルベリンは生薬の黄柏(オウバク、ミカン科のキハダの樹皮)にも
1.2%以上含まれている。
黄連、黄柏の黄色の濃さはベルベリンアルカロイドの含有量と相関する。


DNAの損傷が細胞のアポトーシスにつながるため、
TopoⅡ阻害薬は抗がん薬としても使われる。
エトポシド、ドキソルビシン、ダウノルビシン、teniposideなどである。
エトポシドもteniposideも抗がん薬でありながら、
同時に悪性の白血病を起こすとして世界保健機関(WHO)
国際がん研究機関(IARC)の発がん物質のグループ2
(ヒトに対して発がん性がある)に分類されている。


TopoⅡ阻害薬は細胞分裂の特定の時期にしか作用しないため、
がん細胞を全て死滅させるためには持続投与する必要がある。
これに対して、発がんや染色体毒性の場合、
DNAが1個でも損傷を受け修復が障害されれば、
影響が顕在化する可能性がある。
内藤氏は「ベルベリンのような染色体毒性発がん物質は、
少量短期間の摂取で受精卵の成長を阻害し、
流早産を引き起こし、がんを発生させる可能性がある」と述べた。


◆直ちに予防的措置を取るべき
哺乳動物の避妊薬開発を目的に研究が行われ、
マウスではベルベリンによる受精卵の胚盤胞(胞胚)への成長の阻止が認められた。
また、妊娠後のメスマウスでも胚盤胞への成長率の低下、
生存胎仔数の有意な減少も見られた。
この結果は、そのままヒトにも当てはまることが想定される。
ベルベリンが哺乳動物の避妊薬として有望だということと同時に
ヒトでも受精卵の成長が阻害される可能性が示唆された。


内藤氏は「黄連、黄柏を含む漢方薬または
ベルベリン製剤を服用し不妊治療を受けるのは、
避妊薬を飲みながら不妊治療を受けるようなもの」と強調。
流産は全妊娠の10〜15%に発生し、
その70%は染色体の異常によるといわれているため、
少子化対策の観点からも重要な問題といえる。


前述の抗がん薬エトポシドは漢方生薬八角蓮(ハッカクレン)の成分
ポドフィロトキシンから合成されたもので、
ポドフィロトキシンもTopoⅡ阻害作用を有する。
ポドフィロトキシンも八角蓮も流産、
さらには先天奇形を起こすため、妊婦には禁忌とされている。


2014年度の黄連の使用量は4万4,563kg、黄柏は18万7,243kgで、
ベルベリン含有量を計算すると4,119kgのベルベリンが
パルマチンとともに医薬品として消費されていることになる。
ヒトではベルベリン200mgで受精卵の成長阻害が見られることを考えると、
2,000万人以上の女性が流早産を起こす量である。
黄連、黄柏を含む医療用漢方製剤は17種(表)あり、注意が必要と思われる。
しかし、添付文書における黄連、黄柏の発がん性、
生殖毒性についての注意喚起は欠落している。


表. 黄連、黄柏を含む医療用漢方製剤
温清飲(ウンセイイン)、
黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)、
黄連湯(オウレントウ)、
荊芥連翹湯(ケイガイレンギョウトウ)、
柴陥湯(サイカントウ)、
柴胡清肝湯(サイコセイカントウ)、
三黄瀉心湯(サンオウシャシントウ)、
清上防風湯(セイジョウボウフウトウ)、
竹筎温胆湯(チクジョウンタントウ)、
女神散(ニョシンサン)、
半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)、
竜胆瀉肝湯(リュウタンシャカントウ)、
滋陰降火湯(ジインコウカトウ)、
梔子柏皮湯(シシハクヒトウ)、
七物降下湯(シチモツコウカトウ)、
清暑益気湯(セイショエッキトウ)、
半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジュツテンマトウ)


同氏は「染色体毒性発がん物質はその性質上、
ヒトでの発がんや流早産・先天奇形が立証されるまで待つべきものではなく、
学会、行政とも直ちに予防的措置を取るべきである」と主張。
「並行して、がん患者や、流早産を起こした女性、
原因不明の不妊の女性の服薬歴聴取を詳細に行い、
その際に黄連、黄柏を含む医療用漢方製剤17種を含めることが必須である。
また、肝がんと黄連、黄柏を含む漢方製剤との関係についての疫学調査も必要である」
と述べた。