パキシル

SSRIの服用方法と副作用
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/di/diquiz/ より一部改変


◆Question

35歳男性
今日、「うつ病」と診断されて、この薬を飲むことになりました。
先生には「自分の判断で薬を飲むのをやめないように」と言われました。
でも、飲み続けていて、副作用が出るということはないのでしょうか。
それから、仕事の都合で、夜は薬を飲めないことが多いので
できれば朝食後に飲むことにしたいのですが。


処方せん
パキシル錠20mg
 分1 夕食後 7日分

◆服薬指導

パキシルは、これまでの抗うつ剤に比べて副作用が少ないとされるお薬です。
ただ、飲み始めてから効果が出るまでに2週間ほどかかるほか
しばらく服用を続けた後に急に飲むのをやめると
めまいや睡眠障害などの副作用が出やすいことがわかっています。
ですので、先生がおっしゃったように、効果がないから
あるいは体の調子がよくなったからといってご自分の判断で服用を中止したりせずに
先生の指示があるまで飲み続けるようにしてください。もし、体調が悪かったり
症状が良くなったので薬が必要ないとお考えの場合には、まず先生にご相談ください。
薬を飲む時間ですが、この薬を朝に服用すると
眠気の副作用が強く出てしまう可能性があるので、夜に飲むのが一般的です。
ですが、夜だとどうしても飲めない日があるということでしたら先生に相談してください。

◆解説

パキシルは、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(selective serotonin reuptake inhibitor、以下SSRI)である。
 SSRIが導入されるまで、うつ病治療の主役であった三環系抗うつ剤は、神経終末からシナプス間隙に放出されたセロトニンノルアドレナリンが神経終末に再び取り込まれる経路をブロックすることで、シナプス間隙のこれらの量を増やし、抗うつ効果を発揮する。ただ、同時にアドレナリンα1受容体やムスカリンアセチルコリン受容体、ヒスタミンH1受容体にも作用するため、これらの受容体を介した副作用が出現し、臨床的には使いにくい薬とされていた。これに対し、SSRIセロトニンの再取り込みだけを選択的に阻害することから、三環系抗うつ剤で問題となっていた副作用は発現しにくいと考えられている。

 一方、三環系抗うつ剤には速効性がなく、効果発現までに1〜2週間の時間がかかることが知られているが、この点に関してはSSRIも同様である。三環系抗うつ剤SSRIの投与により、シナプス間隙のセロトニン量が増加すると、セロトニン1Aおよび1B/D受容体が刺激されることで、神経終末からのセロトニンの産生・放出が抑制されてしまい、結果的に投与初期にはシナプス間隙のセロトニン量が増加しない。しかし、反復投与することで、これらの受容体の感受性が低下し、セロトニンの産生・放出が抑制されなくなるため、次第にシナプス間隙のセロトニン量の増加が維持され、抗うつ効果を発現するようになる。

 また、服薬を中止すると退薬症状が出現する点でも、三環系抗うつ剤SSRIは共通している。これは薬剤の突然の中断により、感受性の低下した受容体が作動するのに必要なセロトニン量が確保できなくなり、受容体を介する生理機能の調節が十分に行えなくなるためである。SSRIの退薬症状としては、嘔気、嘔吐、下痢、筋肉痛、発汗などのインフルエンザ様症状のほか、不安、焦燥、抑うつ、自殺企図、不眠、妄想等の精神症状、めまい、麻痺、振戦、頭痛、知覚過敏などの中枢神経症状が報告されている。これらの症状は、投与中止後1〜7日以内に発現し、10日間ほど持続する。このことから、SSRIの投与を中止する場合は、退薬症状の発現を抑えるため、数週間かけて徐々に減量しなければならない。

 以上のような理由から、SSRIの服用者には、自己判断で休薬することがないよう、十分に指導する必要がある。Mさんには、このような処方医の意図を説明し、指示通りに服薬を続けるように指導する。

 なお、患者は服用時期の変更を希望しているが、パキシルでは「1日1回夕食後」の用法が原則であり、このことは添付文書にも書かれている。これは、同剤の副作用に眠気があり、眠気を夜間の睡眠時期と重ねた方が望ましいと考えられているためである。もっとも、コンプライアンスの低下が懸念される場合には、服用時期について処方医と協議する必要があるだろう。