睡眠剤切り替え時の注意点

眠剤切り替え時の注意点
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/di/diquiz/ より一部改変
 
日経DI 2002年9月号から2003年8月号までに掲載された問題集

◆Question

32歳の女性
睡眠薬を出してもらっていたのですが
体がだるくなったり、ふらつく感じが続くようになりました。
それで今日の診察の時に、先生にそのことを話したら、薬が変わることになりました。
先生は、こちらの薬の方がだるさやふらつきが起きにくいとおっしゃっていたのですが……。


処方せん
前回までの処方せん
ハルシオン0.25mg錠 1錠
  1日1回 就寝前服用 7日分

今回の処方せん
マイスリー錠10mg 1錠
  1日1回 就寝前服用 7日分

◆疑義紹介

ハルシオンマイスリー
いずれもベンゾジアゼピン受容体に作用する薬剤ですが
若干、作用機構が異なっており
今回のように一気にマイスリーへと切り替えた場合
ハルシオンを突然中止したことになって、離脱症状が起きる可能性があります。
ですので、マイスリーに変更なさるのでしたら
少なくとも2〜4週間はハルシオンと併用する形で様子を見ながら
徐々にハルシオンを減量していくのが適当かと思いますが、いかがでしょうか。

◆解説

適切な処方変更の一例
今回から3週間目までの処方
ハルシオン0.125mg錠 1錠
 1日1回 就寝前服用 7日分
マイスリー錠5mg 1錠
 1日1回 就寝前服用 7日分
4週間後以降の処方
マイスリー錠10mg 1錠
 1日1回 就寝前服用 7日分


ベンゾジアゼピン受容体には
ω1、ω2などのサブタイプが存在することが知られており
ハルシオンなど多くのベンゾジアゼピン系薬剤は
ω1とω2の両方の受容体を刺激する。
これに対し、マイスリーなど非ベンゾジアゼピン系の薬剤は
比較的、ω1受容体への選択性が高い。


ω1、ω2の脳内分布は異なり
ω1受容体が小脳や嗅球、淡蒼球、大脳皮質の第4層等に多いのに対して
ω2受容体は筋緊張に関与する脊髄や、記憶に関与する海馬に多い。
このことから、主にω1は催眠・鎮静作用に、ω2は筋弛緩作用に関与し
ベンゾジアゼピン系薬剤の方が、ベンゾジアゼピン系薬剤に比べて
筋弛緩作用によるふらつきや脱力感、倦怠感などの副作用が発現しにくいとされている。


受容体への選択性が違うことからも推測されるように
ハルシオンマイスリーの作用メカニズムは全く同一とは言えず
切り替えを行った場合、両剤に共通しない作用部分が存在することにより
離脱症状が起きるものと考えられる。
ただ、そのメカニズムについてはいまだ明らかになっていない。


マイスリーの市販後調査では
幻覚や錯乱、せん妄などの副作用が75例あったことが報告されている。
そのうち48例について追加調査をしたところ
28例は他の睡眠剤抗不安剤から切り替えた後にこれらの副作用が現れていた。
前薬の服薬期間に一定の傾向は認められなかったが
薬剤の種類別では超短時間型睡眠剤が10例、短時間型睡眠剤が13例を占めていた。
また、前日まで前薬が投与されていたケースは18例で
14例はマイスリー投与開始後1〜3日以内に、副作用が発現していた。


ベンゾジアゼピン受容体刺激剤のうち、特に超短時間型の薬剤では
投与中止により痙攣発作やせん妄、振戦、不安、幻覚、妄想などの
離脱症状が現れることが知られている。
これらのことを考慮すると、マイスリーの市販後調査でみられた副作用には
同剤自体の副作用ではなく、前薬の離脱症状が出現したものも多いと推測される。


前薬の離脱症状を回避する方法としては
ハルシオンのみ0.25mg」から「ハルシオン0.125mgとマイスリー5mgの併用」
次に「マイスリーのみ10mg」とする方法が提案されている。
この漸減法については、処方期間までは示されていないが
一般に、超短時間型のベンゾジアゼピン受容体刺激剤の離脱症状を回避するには
2〜4週間かけて徐々に減量していくことが適当とされており
これらを踏まえると、例えば図に示したような処方変更が考えられる。