香港的尖沙咀重慶大厦(1997)

1997年3月

返還前の香港はやたら観光客が多く

ホテル代が高騰していた。

(1997.7.1に中国に返還されました)

 

中級の手ごろなホテルはことごとく満室だと断られ

尖沙咀(ツィム シャッ ツォイ)の

重慶大厦(チョンキンマンション)に向かう。

 

風間杜夫に似たそのオヤジは重慶大厦の前で

僕がホテルを探していることを嗅ぎ付け

「俺のホテルに泊まれよ」と名刺を出してきた。

 オヤジはホテルのオーナーだと言う。

ほな部屋を見せてんか、と付いていく。

 

重慶大厦は胡散臭い雑居ビルで

インド人がやたら多い。

 いつもエレベーターが行列になっていて、

1~2回待たないと乗れない。

エレベーターには内部の様子を観察できるカメラがついていて

1階の乗り場で警棒を持った警備員がモニターを監視し、

犯罪を防止しているようだ。治安が悪そうだ。

せまいエレベーターにインド人たちと乗る。

満員のブザーが鳴るまで人が乗り込む。

 

重慶大厦にはエレベーターはたくさんあるが、

そのエレベーターでしかそこには行けない。

 恐らく廊下にも部屋を作っているのだろう。

火事になった時が恐ろしい。

 

オヤジにこの部屋だと案内される。

そのホテルの部屋は何階だったか忘れたが、高層にあり

ネイザンロードに面したツインのこぎれいな部屋だった。

 

「いくら?」

と聞くと7000円だと言う。

(値段はすっかり忘れた。ここであげている値段はかなりいいかげんです)

ホテル代が高騰している返還前のこの香港で 

ツインのシングルユースでこの値段はラッキー!と即決。

金を払う。

「それから、別にTAXが4000円。」

なにー!

「あほか!おっさん、やめるわー。金返せ!」

香港人はつかんだ金を絶対に離さねえんだよ。知らねえのか?」

オヤジは金を返さない。

確かにいい部屋だったので、まあいいかと追加の金を払う。

 

街に出ようとすると、オヤジがまた来て

今から日本人の2人組が来るからこの部屋に入れたい。

おまえは俺の家に来い、と言う。

 「イヤだ。さっき話はついたはずだ。」と言うと

「2000円返しますさかいに、たのみますわー。

あんさん、今が稼ぎどきなんですわー。

中国に返還されたら、ワシらの将来どうなるかわかりまへんのやー。」

と泣きつくので、しかたなく、金をもらいバックパックをまた担いだ。

 

エレベーターで降りて1階に行き

インド人だらけの猥雑な通路を歩いて

別のかったるいエレベーターに乗りかえる。

 

オヤジの家は同じビルの中にある。

厳重な二重扉をあけて中に入る。

僕に与えられた部屋は、窓のないせまい部屋だったが

別にテレビのある広い部屋でソファを使ってくつろいで良いし

風呂も好きに使えと言う。

ホームステイできる貴重な体験なのでOKする。

 

オヤジは家の鍵を僕に渡して、

「大切な家の鍵を貸すのだからデポジットとして2000円出してちょー。

あとで返すし。」と言う。

返してもらった2000円をまた取り上げられる。

 

エレベーターがかったるいので階段を降りて下に行く。

薄気味悪い階段だ。カツアゲされてもおかしくない。

 

街に出る。人がうじゃうじゃいて、人種は雑多だ。すごい街だ。

夜になって雨が降ってきた。

ブレードランナー」のシーンを思い出させる。

 (つづく)