片頭痛の新攻略法  Vol.1

日経メディカル2013年2月号「特集 片頭痛の新攻略法」転載 Vol.1
不適切な治療や加齢で進行、片頭痛の約3割が慢性化
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t194/201302/528955.html



◆脳が痛み刺激に感作される
「たかが頭痛」と軽くみて市販薬で対処していたり
不適切な治療を受けていると、片頭痛が慢性化することも
近年の研究で明らかになってきた。


富永病院頭痛センター長の竹島多賀夫氏は
片頭痛の約3割は何らかの理由で、慢性化して増悪する」と言う。


片頭痛の慢性化には、脳の器質的な変化が関連すると考えられている。
脳内の痛み調節システムが異常を来し、痛み刺激に感作された状態が生じるのだ。
日本頭痛学会理事長で埼玉精神神経センター頭痛センター長の坂井文彦氏は
「花粉症の患者が少量の抗原に対して過剰反応しているのと同じで
頭痛が慢性化した患者では、通常では痛みと感じない刺激すら痛みとして認識する」
と話す。このような患者は、光や音、臭いなどの刺激にも敏感に反応する。


◆頭痛薬の使い過ぎで慢性化
特に医療者が注意すべきは
発作時に服用する急性期治療薬の使い過ぎによる片頭痛の慢性化だ。
このような頭痛は薬物乱用頭痛と呼ばれる。
竹島氏は、「慢性化した患者の約半数は薬物乱用が原因」と分析する。
日本における薬物乱用頭痛の原因として最も多いのは、市販の鎮痛薬の乱用といわれる。
しかし、医師が日常的に頭痛患者に処方するNSAIDsやトリプタン系薬
(以下、トリプタン)、エルゴタミンによっても薬物乱用頭痛は生じ得る。


間中氏も急性期治療薬の使用に関して
「月に10回未満であれば薬物乱用頭痛のリスクには全くならない。
しかし、それ以上、特に月の半分以上服薬している場合は
薬物乱用頭痛を生じるリスクが高い」と注意を喚起する。
腰痛や生理痛など、頭痛以外の目的で服用する鎮痛薬でも
合計の服薬日数が増えれば、薬物乱用頭痛を招きかねない。
片頭痛のコントロールが悪いと思ったら、他科で腰痛のためにNSAIDsを処方され
薬物乱用頭痛になりかけていたケースもあった」と竹島氏。


◆「変容する」症状にも注意
加齢に伴っても、片頭痛は慢性化する。
これは、「慢性片頭痛(chronic migraine)」と呼ばれる比較的新しい概念で
2004年に、国際頭痛分類に初めて加えられた。
同分類は、「薬物乱用がなく、片頭痛が月に15日以上の頻度で3カ月以上続く」
ものと定義する。

慢性化した片頭痛の中には、症状が緊張型頭痛様に変化したものもある。
これは、米国を中心とする研究者が提唱する新たな片頭痛の一つで
変容片頭痛(transformed migraine)と呼ばれる。
加齢とともに、肩凝りやめまい、不眠などの緊張型頭痛様の症状が片頭痛に加わり
片頭痛そのものの症状が変化するとされる。
変容片頭痛は、国際頭痛分類には採用されていない新しい概念だが
「変容片頭痛は慢性片頭痛の一部と考えていいだろう」と竹島氏は説明する。


大和田氏は、「中高年期の患者では変容片頭痛患者が少なくない。
このような患者が自覚する愁訴は頭痛以外のものが多くなってくるので
片頭痛が基盤にあることを見落とし、更年期障害や緊張型頭痛と間違いやすい」
と指摘する。
過去に片頭痛の既往がある中高年患者では
片頭痛のなれの果て」である変容片頭痛の可能性があるのだ。
一昔前まで片頭痛は若年女性に多く、閉経とともに治癒すると考えられていた。
しかしこれからは、「片頭痛は進行して慢性化する疾患」(坂井氏)と認識を改め
早期に診断し、適切な治療で慢性化を阻止する必要がある。