1カ月に100錠の頭痛薬からの離脱

私の漢方診療日誌
1カ月に100錠の頭痛薬からの離脱
平塚共済病院 神経内科医長 中江啓晴先生
http://www.kampo-s.jp/magazine2/210/rensai.htm



頭痛患者さんに急性期治療薬が乱用されると薬物乱用頭痛を引き起こします。
薬物乱用頭痛は1カ月に15日以上起こる片頭痛様頭痛と
緊張型頭痛様頭痛が混在した複雑な頭痛パターンを呈し、
再発しやすいことからその治療と患者教育が重要とされています。


Iさんは42歳女性で、主訴は頭痛です。
16歳から頭痛が出現するようになりましたが、
市販の頭痛薬内服ですぐに治まっていました。
41歳から頭痛の頻度が増加し頭痛薬を頻回に内服するようになりました。


頭痛は後頭部が何となく重くなる感じで、
頭痛のときは安静にするよりも動いている方が楽でした。
頭痛の後にはすごく肩が凝る感じがありました。
頭痛が毎日あり1日中続くため、
市販の頭痛薬を1カ月に100錠内服するようになりました。
1カ月に100錠、頭痛薬を飲む状況がさすがに心配になったIさん、当科を受診されました。


 身長162cm、体重70kgとややがっちりとした体格の女性です。
 脈診ではやや沈の脈で、舌診では白色の舌苔を認めました。
 腹診では腹力は中等度で臍下不仁、臍上悸、臍下悸を認めました。
 国際頭痛分類第2版に基づき、慢性緊張型頭痛、薬物乱用頭痛と診断しました。


まず、薬物乱用頭痛の治療を行うこととして、
市販の頭痛薬の内服を中止し、五苓散3P分3毎食前を開始しました。
強い頭痛で耐えられない場合のみ、月5回に限り、
こちらで処方したイブプロフェンを内服可能としました。
市販の頭痛薬中止直後の1週間は痛みが持続しましたが、
1カ月経過した時点で起床時の頭重感が消失しました。


五苓散に当帰四逆加呉茱萸生姜湯3P分3毎食前を追加したところ、
1日1回は頭痛があるものの、頭痛のない時間が増加し、
さらに3カ月後には頭痛は1カ月に5回となりました。


また以前からあった腹部の冷たい感じがなくなり、
毎年冬になると出現する足先のしもやけが出現しなくなりました。
治療開始から6カ月後には頭痛はわずか月1、2回となりました。


薬物乱用頭痛は、患者さんが急性期治療薬を乱用している間は
予防薬にほとんど反応しないため、その診断は臨床的には極めて重要です。


薬物乱用頭痛の予防と治療の原則は
原因薬物の中止、薬物中止後に起こる頭痛への対応、予防薬の投与の3つです。


予防薬としては抗うつ薬、抗てんかん薬、ステロイド
トリプタン、消炎鎮痛薬などの報告がありますが、確立された治療法はありません。


今回は予防薬として漢方薬を使用し良好な結果が得られました。
五苓散単独でも効果はありましたが、
当帰四逆加呉茱萸生姜湯を合方することで更なる改善が得られました。
毎年冬になると出現するしもやけが出現しなくなったことからも、
温める作用が強い当帰四逆加呉茱萸生姜湯を追加したことが良かったと考えました。