精神科の喫煙問題

“無視”されてきた精神科の喫煙問題,
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/1209/1209051.html



東京武蔵野病院・臼井洋介氏に聞く
精神疾患患者における喫煙率は一般人口に比べて高く
向精神薬の効果への悪影響も指摘されている。
また,精神科病院では喫煙が容認されてきたため
受動喫煙曝露や,たばこによる火災も起きている。


大部分の精神科病院は,いまだに病室内で公然と喫煙させている。
院内で,たばこを販売している精神科病院は多い。
精神科の低い診療報酬を補う貴重な収入源になっている可能性も否定できない。


そうした環境に置かれた場合,もともと喫煙しない人であっても
特に若年の入院患者は年配の入院患者から喫煙を勧められれば断れず
やがて習慣化してニコチン依存症になってしまうケースがある。
とりわけ,自我機能が低下し,入院が長期化しやすく
環境依存性が高まる傾向にある統合失調症患者では,より喫煙率が高くなる。
精神疾患別に見た喫煙率は
うつ病や不安障害では40〜50%,統合失調症では70%という報告もある。


ニコチン依存症は,国際疾病分類第10版(ICD-10)や
精神疾患の分類と診断の手引き第4版修正版(DSM-IV-TR)に
アルコール,覚せい剤,麻薬,大麻などによる依存症と同様に
記載されている精神疾患だが,精神科病院ではほとんど対応されていなかった。
むしろ,ニコチン依存症は精神科病院でもつくられてきたといえるだろう。


禁煙が困難な理由の1つに,ニコチン離脱症状がある。
ニコチン離脱症状とは,ニコチンが体内から排出された後に起こる
不安感,気分の落ち込み,イライラといった精神症状である。
「たばこが切れた。たばこが吸いたい」と認識する喫煙者もいるだろう。
その症状を解消するために再び喫煙する。
こうしているうちに,負のスパイラルに陥ってしまうのだ。


これを脳波で見てみよう。
健康人の安静閉眼時の基礎波であるα波は8〜13Hzで,平均10Hzである。
しかし,脳機能の低下やストレス状態などでは,8〜9Hzと徐波化する。
喫煙者では,α波の平均が9.3Hzと徐波化しており,喫煙すると10Hz程度まで回復する





喫煙によりストレスが解消できたり,集中できたりするといわれるが
それは,まやかしである。
喫煙で,一時的にニコチン離脱症状が緩和されたにすぎない。


また,たばこに含まれる多環芳香族炭化水素は,肝臓に作用して
グルクロン酸転移酵素(UGT)やCYP1A2などを誘導し,薬物血中濃度を低下させる。
このため,向精神薬の効果を減少させてしまう(表)。


喫煙する患者本人は,たばこがだるさなどの副作用を緩和させてくれると認識している。
しかし,医師は薬効不十分として,処方薬を増やさざるをえなくなる。
処方薬が増えれば,患者はさらに喫煙で副作用対策するという悪循環になる。
これを繰り返していくうちに,薬物治療は混乱し,多剤・大量処方に陥る危険がある。