川崎病

川崎病、後遺症予防へ一手
心臓の血管異常 減らす治療法、免疫製剤・ステロイド剤併用
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO42594620U2A610C1EL1P01/



発見から45年以上たってもなお発症原因が分からない川崎病
乳幼児に多い病気で、まれに心臓の血管に瘤ができ
何年もたって心筋梗塞を引き起こす場合がある。
最近、こうした後遺症を防ぐ有効な治療法が見つかった。
ゲノム解析で病気との関係が深い遺伝子も少しずつ判明しており
血液検査で発症しやすさなどを診断できるようになる期待もある。


「検査で心臓に瘤がみつかっていなければ心配いりません」
と病気の発見者で小児科医の川崎富作理事長は答えている。


川崎病は主に4歳以下の乳幼児がかかり、生後数カ月〜1歳の患者の比率が高い。
発熱、目の充血、発疹、手足の末端が腫れて赤くなるなど炎症を伴うのが典型的な症状だ。
「高熱が5日以上続いたら要注意」(川崎理事長)。
早めに「免疫グロブリン製剤」を処方すれば大抵の場合、炎症は治まる。


東邦大学医療センター大森病院小児科の佐地勉教授は
「発症から9日目までにすべての炎症を沈静化させるのが基本」と指摘する。
炎症が長引くと、心臓に酸素や栄養分を送る冠動脈に障害が起きる恐れがあるからだ。
免疫グロブリン製剤が効かない重い症状だと冠動脈瘤ができる危険も高まる。


長年、川崎病の全国調査を実施している自治医大の中村好一教授(公衆衛生学)によると
患者の15〜20%は免疫グロブリン製剤が効かない。
その7〜8割は冠動脈が拡大するなどの合併症を起こす。
多くは自然に元に戻るが、冠動脈瘤などの後遺症を伴う患者も全体の約3%いる。
親指大の巨大冠動脈瘤ができるケースもあり
心筋梗塞を避けるために運動を控えるなど日常生活にも影響が出る。


こうしたなか東邦大学群馬大学のグループは
症状の重い患者でも免疫グロブリン製剤とステロイド剤を最初から併用すると
冠動脈の異常を効果的に防げることを大規模な調査研究で確かめた。


免疫グロブリン製剤だけで治療した例と、ステロイド剤を併用した例を
それぞれ121人ずつ無作為に選び、経過を比べた。
併用の方が冠動脈の異常が明らかに少なかった。
巨大冠動脈瘤ができた例はなかった。
ランセット(4月28日号)に載り、話題を呼んだ。





ステロイド剤は川崎病には不向きとする指摘もかつてはあったが
今回の研究で特にひどい副作用は見られなかった。佐地教授らは製薬会社と協力し
ステロイド剤が川崎病の急性期の治療薬として認められるよう、承認申請を準備中だ。


佐地教授らは血中Naや肝機能の指標となっている「AST」と好中球の量などから
川崎病が重症化する可能性を予測する手法も考案した。
免疫グロブリン製剤とステロイド剤を併用するかどうかの判断に役立てる考えだ。


自治医大の中村教授らの調査では、川崎病で全国の小児科を受診した患者は
2005年以降、毎年1万人を超え、10年は1万2000人を突破した。
過去には1979、82、86年に患者数が跳ね上がり、その後は目立ったピークはないが
じわじわ増え続けている。


川崎病の原因特定は難航を極めている。
患者は冬に多く、夏にもやや増える。
過去の流行時には時間とともに患者発生地域が広がる傾向もあった。
何らかの感染症が引き金になっているとの見方が有力だが
「冬と夏で別の感染症がかかわっている可能性がある」(中村教授)。
学校や病院で人から人に川崎病が直接感染したとの報告はなく
原因ウイルスや細菌は謎に包まれたままだ。


人種別でもかかりやすさに差があり、米国の調査では日系人罹患率がもっとも高い。
ハワイに住む日系人罹患率は白人に比べて明らかに高く、日本国内並みという。
遺伝的な特徴が関係しているようだ。


千葉大学大学院医学研究院の尾内善広講師は理化学研究所の協力を得て
患者と健康な人の計約3800人を対象に遺伝子解析を実施。
ゲノム上で、病気と関連が深いと考えられる領域を3カ所見つけた。
一つは血管内皮細胞の表面にあり関節リウマチなど
自己免疫疾患の関連たんぱく質である「CD40」とかかわりがあった。
もう一つも免疫細胞の働きに関係する箇所だった。


海外の成果も含めると
川崎病に関連するとみられる遺伝子領域はこれまでに6カ所判明した。
今後、シーケンサーの普及などで研究がさらに進めば、遺伝子診断を通して
川崎病の発症や重症化の可能性をあらかじめ調べ、適切な治療法を選べるようになるかもしれない。
日本経済新聞夕刊2012年6月15日付]