アシネトバクター

不毛なアシネトバクター騒動http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/opinion/orgnl/201009/516604.html

https://aspara.asahi.com/blog/science/entry/ndwVwmPqEZ


今回、騒動になっているアシネトバクターという菌は
濃厚に抗菌薬を使わざるを得ない高度医療の場では
多かれ少なかれ見つかる可能性の高い菌です。
探し回れば、これから色々な医療機関で見つかってもおかしくありません。


また、アシネトバクターはもともと抗菌薬に対して耐性が強い菌です。
「多剤耐性アシネトバクター」というと何か恐ろしいイメージですが
「生まれつき耐性がある菌が、また少し追加で耐性を獲得した」という程度の話。


かつて、同様に耐性菌で騒がれたMRSA
もともと凶暴で病原性の高い黄色ブドウ球菌に抗菌薬が効きにくくなったという点で
テロリストが大きなナイフを手にした感じがありました。
それに対し今回の耐性アシネトバクター
100歳を超えたご高齢の方が、ナイフを持たされてただ座っているようなもの。
周囲にいるほとんどの人にとってはさしたる危険性はありません。
アシネトバクターはもともと、人に危害を与える能力の低い菌なのです。


病院には、免疫力の落ちた人が狭い空間に集まりますから
アシネトバクターもそれなりの脅威にはなり得ます。
ただ、仮にアシネトバクターが培養で検出された方が亡くなったとしても
本当にアシネトバクター感染症によって亡くなったのか
もともとの疾患、例えば末期癌が悪化したためだったのかは
適切な臨床的、疫学的な検討が無ければ分かりません。


そのような意味では、アシネトバクター
「患者さんの状態が非常に悪いですよ」という標識・マーカーのような存在なのです。
私がよく「アシネトバクターは殺し屋ではなくて葬儀屋」であるという所以です。


丁寧に培養検査をするからアシネトバクターは見つかるだけのこと。
いい加減に抗菌薬を使い、培養もしない病院では見つかりません。


青木眞先生(感染症コンサルタント