マザーテレサとともに祈る

Mother’s House (1997.4)
f:id:sna59717:20001201184633j:plain

マザーテレサ

ニューデリーから夜の便で宮澤とカルカッタ空港に到着。
タクシー乗り場に行くと二人の長身の白人女性から
「サダルストリートまでシェアしない?」と誘われた。

おんぼろのアンバサダーには毎度のことながら
運転手のほかにもうひとりヒマなインド人が乗りこんで来て
前後に3人ずつとなった。エアコンはない。暑い。
 
彼女たちはオランダ人で
これから1ヶ月間マザーテレサのもとで
ボランティアをしたあと旅に出ると言う。
 
去年も同じことをしたと言う彼女たちによると
マザーテレサに会いたいのなら
午前か午後の5時にマザーズハウスへ行けばいいと教えてくれた。
宮澤は敬虔なクリスチャンでマザーに会えると興奮していたが
実はその時、僕はマザーテレサについては
ノーベル賞をもらった人だという以外には何も知らなかった。
 
次の日の夕方、彼女たちに言われたとおりに
リキシャマンにマザーズハウスまで二人で10ルピー(35円)でどう?
と交渉したところ、彼は一発で首を横にかしげた。(OKの意味)
しまった、もっと安く行けたと思う。
 
リキシャは大通りを走ることが禁止されているため狭い道を走る。
暑い中、宮澤と僕を乗せて延々とスラムを走り続けるサンダル履きのリキシャマン。
彼らは社会的に弱い立場にあり、道では車やバイクを優先させねばならず
それらが来ると立ち止まり、またスタートさせる。
 
リキシャマンの痩せた背中や首筋から汗が噴き出してきて
薄汚れたランニングシャツが濡れていくのを見ていると
拷問しているような気分になる。
f:id:sna59717:20001201183437j:plain

リキシャ、アンバサダー、のら犬
(サダルストリートにて)
 
マザーズハウスに着くと子供たちがワラワラと寄って来た。
アメをあげると彼らは奪うように掴み取り
「兄弟がいるから、もっとちょうだい」とせがんだ。
こういう場合何かをあげると1個で満足する子供はいない。
 
マザーズハウスは大通りに面しており
その外壁は車の排ガスで薄黒く汚れていた。
 
礼拝堂で待っているとやがて白衣のマザーテレサが現れ
多くのシスターとともに祈りが始まった。
そのとき見たマザーは高齢のため背中が曲がっており
多少、不随意運動が見られたが、顔色は良く元気そうだった。
 
敬虔なクリスチャンである宮澤の解説によると、
彼女たちは毎日こうやって世界平和を祈っているのだと言う。
マザーテレサはその4ヶ月後に亡くなられた。)
 
僕はその時、マザーの弱々しい姿を見つめていた。
今さっき通ってきたスラムの劣悪な環境の中において
彼女が87歳まで生きられたのは
奇跡以外の何物でもないと思える。
神によって生かされたと言わざるを得ない。
 
しかし、この教会の質素さはどうだ。椅子さえない。
僕たちはコンクリートの上にじかに座っている。
すべての無駄を排除して貧民に施しを与えるという姿勢が感じられる。
 
そこは暑いが扇風機もない。
開け放たれた窓から風は吹き込まず都会の喧騒が入り込み
シスターたちの祈りの声はかき消される。


※「マザー・テレサは路傍に捨てられて、誰からも顧みられず
死を待つ人々を連れ帰り、宗教・人種の違いを問わず
人間らしい最期の看取りに尽くした。」(読売新聞より)
 

GANGER

ガンジスのガートに着くと
すぐさま目つきの悪い若いガイドが近づいてきて
意外にもインド訛りのないきれいな英語で喋りだした。
そいつは「ジャパニ?」「ガイド?」などのありがちな挨拶もなく
いきなり強引にガイドをし始めた。

f:id:sna59717:20001026222921j:plain
左側に白い布に包まれた遺体がある
 
「あそこに遺体がある。」
男が指差した方向に白い布に包まれた遺体らしきものがあり
それを男たちが囲んでいた。
「火葬は男だけでする。
その灰はガンガーに流す。
大海に注ぎ込みやがて大地に帰るのだ。」
 
「誰も涙は流さない。
なぜならば、その人は天寿を全うしたのであり
この行事はそれを祝福して行われるのだから。」
 
「しかし、病死や事故死した人は焼かずに流す。
動物も焼かずに流す。」
 
男が指差した。
「ほら、あそこに牛が流れているだろう。」
大河の向こう岸あたりに牛が流れているのが見えた。
 
遺体のまわりの蒔に点火され
やがてそれが勢い良く燃え出した。
僕たちはそれをしばらく無言で見ていた。
 
「聖なる火(点火用の火)を見に行こう。」
男は僕たちを誘った。
 
僕はここでこの男に金を請求されると思ったので無視したが
宮澤はついていった。
 
結局、宮澤は100ルピーもの大金を請求された。
しかし、宮澤が払わなかったので僕に請求してきた。
宮澤が払うべきお金だったが
うるさいので1ルピーを差し出したら
男は怒り出して受け取らなかった。
 
 
その男に罵声を浴びせ掛けられながら
僕たちはサイクルリキシャに乗りこんだ。