C型肝炎治療薬市場、“IFNフリー”登場で一変

C肝治療薬市場、“IFNフリー”登場で一変  「初年度1000億円」の新薬誕生へ
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インターフェロン(IFN)を不要とする経口剤の上市により、
C型慢性肝炎治療薬市場が様変わりしている。
2014年9月にジェノタイプ1型の「ダクルインザ」「スンベプラ」が世界に先駆けて登場。
今年5月には同2型の「ソバルディ」が発売された。
1型では8月にも「ハーボニー」の参入が予定されるなど、複数品目による競合に突入する。
市場の勢力図も次々に塗り替えられそうだ。


●先発の経口2剤、最速ペースで市場獲得
C型肝炎ウイルスは遺伝子によりタイプが分かれる。
日本ではIFN療法が効きにくい1型が全体の約7割、効きやすい2型が約3割を占める。
ブリストル・マイヤーズ(BM)が発売したダクルインザ/スンベプラは1型で、
世界初のIFNフリーの経口剤として注目を集めた。
ダクルインザには薬価算定で40%の有用性加算が付与され、
「治療体系を劇的に変える」(BMクリニカルリサーチ統括部)期待もあった。


同2剤の治療期間は24週、トータルの薬剤費は約265万円と高額だ。
ただ、医療費助成制度により自己負担は1〜2万円で済み、
発売当初から副作用でIFNが使えなかったり無効だった患者に浸透。
今年3月までの7カ月間に約2万人の患者に投与された。
売上高は薬価ベースで500億円程度と推測され、新薬として史上最速ペースの立ち上がりだ。


同社はピーク時予想を発売2年度目で381億円とはじいたが、
実際にはそれを大きく上回ったことになる。
3月にはIFNの治療歴がない患者には投与できないというシバリが取れたことで、
さらに1.5万〜2万人の患者増を見込めるという。文字通り治療体系を変えた薬剤となった。

 
●記録塗り替えるかハーボニー
一方、ジェノタイプ2型では、5月25日に発売された
ギリアド・サイエンシズの「ソバルディ」がピーク時売上高を987億円に置いた。
同社の折原祐治社長は「(同種の)競合がないため精度の高い予想」としており、
ソバルディは国内史上初の初年度1000億円新薬となる可能性が高い。


さらに、ギリアドが7月3日に承認取得した1型の「ハーボニー」も大型化が見込める。
先行したダクルインザ/スンベプラに比べ治療期間は12週と短く
著効率も100%を誇るだけに、一気に市場を獲得する可能性もある。
折原社長は「治療期間や著効率に加え1日1回1錠の服用、耐性変異の低さなど
製品プロファイルには自信があり、医療現場にそれを理解してもらうのがわれわれの仕事」
と強調。
ダクルインザ/スンベプラに義務付けられている投与前の
耐性検査も不要になるとみられることから、競争を優位に進められそうだ。


1型は患者数が2型の2倍以上でIFN療法も効きにくいことから、
ハーボニーがダクルインザ/スンベプラを凌駕して処方を拡大していけば、
ソバルディに続く1000億円超の初年度売り上げを達成することになりそうだ。


●プロモーション力も要素に
もっとも、市場での位置付けが決まったわけではない。
患者団体「東京肝臓友の会」の米澤敦子事務局長は、
「著効率や投与期間の短さからハーボニーを待つ患者は多い」とする一方で、
「高齢者など自ら薬剤選択ができない患者もおり、それらは医師の勧めに従うことになる」
として、製薬企業の販売力が影響することも示唆している。


ギリアド・サイエンシズのMR数は約150人。
対するBMは総勢800人のうち「肝臓・血液・腫瘍事業部門で300人以上」(広報)。
両社とも専門医中心のプロモーションを強調しており、
当面は病院市場での競合が激しくなるだろう。
1型ではアッヴィも今年2月、
オムビタスビル/パリタプレビル/リトナビルの3剤を申請しており、
来年以降は3社による市場開拓が進むことになる。


C型慢性肝炎の全患者数の捉え方はさまざまだが、ギリアドは約100万人と想定している。
うち7割は患者本人がキャリアであることを認識し、
さらにその4割は過去を含めて何らかの治療を受けている。
しかし、完治するケースは多くはなく、
経口剤の第1のターゲットはこうした治療を望む患者となる。


次の段階では患者の掘り起こしも必要だ。
キャリアといえども無症状なため受診のタイミングがつかめない。
どこまで治療に向かうかで市場の規模が違ってくる。
ただ、「治療経験者や掘り起こされた患者が年平均どの程度受診するかは読み切れない」
(折原氏)のが現状で、市場がどこまで膨れ上がるかの予想は立てづらい面もある。


イノベーション評価の典型例
IFNフリーの経口C型肝炎治療薬は、短期的には薬剤費を急増させる。
特に発売初年度で1000億円というかつてない売上高を記録するインパクトは大きい。
ソバルディについても中医協委員から
ピーク時予想を大きく上回る“懸念”が示されるなど、
市場はこの1〜2年で爆発的に拡大するだろう。
ただ、長期的な医療費節減への貢献は明らかで、
こうした医療上の有用性が高い新薬に高薬価が付けられるのが現在の方向性だ。
長期収載品が“崩壊”していく中で、構造変化の象徴ともいえる市場になっている。


●IFNフリーのC型肝炎治療薬
タイプ 患者割合 薬剤名 発売日 企業名 用法・用量 著効率 薬価 薬剤費 ピーク時売上高
1 70% ダクルインザ/スンベプラ 2014年9月3日 ブリストル・マイヤーズ 24週
(ダクルインザ1日1回、スンベプラ1日2回) 84.7% 9186円/3280.7円 265万円 222億円/159億円(2年度、1.7万人)
ハーボニー配合錠 2015年8月予定 ギリアド・サイエンシズ 12週(1日1回) 100% ― ― ―
2 30% ソバルディ 2015年5月25日 ギリアド・サイエンシズ 12週(1日1回) 96.4% 61799.3円 519万円 987億円(2年度、1.9万人)