イトリゾール パルス療法

爪白癬患者に処方された経口抗真菌剤
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/di/diquiz/ より一部改変
 
日経DI 2002年9月号から2003年8月号までに掲載された問題集

◆Question

37歳の女性
皮膚科に行ったら、爪の水虫だと診断されて、
今日から治療を始めることになりました。
今していただいた説明で、薬の飲み方が
診察の時に先生に言われたのと違います。
どちらの飲み方で飲めばよいのですか。


処方せん
イトリゾールカプセル50 2カプセル
1日1回 朝食直後 14日分


口頭指示は
1日1回 1回4カプセル 朝食直後 7日間服用

◆服薬指導

ただいま皮膚科の先生に電話で確認いたしましたところ、
正しい飲み方は、先生からお聞きになった通り、
「1日1回 4カプセルを1週間だけ飲んで、次の3週間は飲み薬をお休みする」
という方法でした。
イトリゾールは、1日に1回1〜2カプセルを
毎日飲み続けるという方法が一般的なのですが、
爪の水虫の場合には、長く飲み続ける必要がありますので、
できるだけトータルの薬の量を減らすために、
今回のように変則的な飲み方をすることがあります。
具体的には、1カ月のうち 1週間だけ集中して毎日4カプセル飲むわけですが、
この方法の方が、毎日2カプセルずつ飲むよりも、
1カ月間に飲む薬の量が少なくて済みます。
飲む量は少ないのですが、治療効果は変わらないと考えられています。
この飲み方は、比較的最近考え出された新しい方法ですので、
そのまま処方せんに書いてしまうと、保険が利かなくなってしまいます。
そこで先生は、保険の範囲内でお薬を使うために、
本来の飲み方は処方せんには書かず、直接、口頭で指示されたということでした。

◆解説

 長期服用によるコンプライアンスの低下や、副作用発現を回避するために考案されたのがパルス療法である。イトラコナゾールで言えば、1カ月のうち1週間だけ1日400mgを服用し、続く3週間は休薬する。この方法は1995年に海外で提唱され、1日200mgの連日服用と同等の効果であったことが報告された。連日服用に比べて1カ月間の総投与量を減らせるため、副作用の発現リスクを軽減できる。またパルス療法の方が、爪の正常な成長が促進されることが報告されている。

 パルス療法が有効なのは、服用後に同剤が皮膚や爪のケラチンに速やかに移行し、比較的長時間滞留するからである。実際、1日200mgを連日服用した場合、爪中の薬剤濃度は3カ月で有効域の250ng/g以上に達し、内服中止後も5〜6カ月間維持されるが、1日400mgを1カ月間に1週間服用するパルス療法の場合も、3〜4カ月で250ng/g以上に達し、終了後5〜8カ月間はその濃度が維持される。「イトラコナゾール1日400mgを1週間/月」のパルス療法では、3〜4サイクルを施行した後、投与開始から12カ月後に効果を判定を行う。臨床的治癒率は76〜93%と良好である。

 ただしわが国の場合、爪白癬を含む表在性皮膚真菌症に対しては、イトラコナゾールの投与量が1日50〜100mgとなっており、上限も1日200mgである。このため、1日400mgを投与する方法は現実的ではなく、様々な変法が試みられているが、現時点では「1日200mgを1週間/月」という方法が一般的なようである。

 処方医の意図も、この「1日200mgを1週間/月」というイトラコナゾールのパルス療法にあったと考えられる。ただし、爪白癬に対するイトラコナゾールの1日200mg投与は適応外であるため、処方せん上は、1日服用量を半分の100mgとして基準範囲内に抑え、代わりに処方日数を倍の14日分にして、1回投薬量の帳尻を合わせたものと推測される。