子宮内膜症治療薬の特徴

笹嶋勝「クスリの鉄則」
子宮内膜症治療薬の特徴

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/di/column/tessoku/201208/526283.html


子宮内膜症は、卵巣摘出や放射線療法以外には、基本的に閉経まで治らない疾患です。
疼痛や不妊が生じるので、そのような苦痛をできるだけ取り除くことが治療の中心になります。
治療として、偽妊娠療法か偽閉経療法が行われます。偽閉経療法の方が効果は高いです。


偽妊娠療法には、低用量ピルやジエノゲスト(ディナゲスト
ダナゾール(ボンゾール)、GnRHアゴニスト製剤であるブセレリン酢酸塩
(スプレキュア)や酢酸ナファレリン(ナサニール)、ゴセレリン酢酸塩
(ゾラデックス)、リュープロレリン酢酸塩(リュープリン)を用います。
注射剤は作用が非常に強く、最も強いものがリュープロレリン酢酸塩
次がゴセレリン酢酸塩です。

長期に用いる薬剤(偽妊娠療法)

◆ノルエチステロン・エチニルエストラジオール配合製剤(ルナベル)
本剤は、子宮内膜症の適応症を取得した薬剤として2008年に発売されました。
21日間服用し、7日間の休薬が必要なので
服薬方法を患者に十分理解してもらうことが重要です。


副作用は、不正出血が最も多く、悪心や頭痛の頻度も高いです。
血栓症が起きやすい35歳以上、1日20本以上の喫煙者への投与は禁忌です。
他の患者でも禁煙が基本です。
避妊目的の低用量ピルとの併用もできませんし、6カ月に1回の検査義務もあります。


◆ドロスピレノン・エチニルエストラジオール(ヤーズ)
2010年に発売されました。24日間服用、4日間休薬が必要ですが
プラセボ錠と実薬がセットになっており、服薬不良を防止できるようになっています。


本剤も低用量ピル類似の作用ですが、エストロゲンの配合量は少なくなっています。
抗アンドロゲン作用のみならず、抗アルドステロン作用も有しています。
これが、配合されているエストロゲンによる水分貯留傾向に拮抗します。


◆ジエノゲスト(ディナゲスト
本剤も2008年に発売されましたが、低用量ピルと類似の薬剤ではありません。
卵巣機能抑制作用として、視床下部・下垂体に作用し
LHサージ(黄体ホルモンが一過性に放出される現象で
ヒトではこの24〜36時間後に排卵する)を抑制することによって、排卵を抑制します。
また、子宮内膜症細胞への直接増殖抑制作用を持ちます。


理論的には、低用量ピルを用いるよりも
卵巣機能を直接抑制するプロゲスチンを投与するのが最も良いのですが
今までのプロゲスチンはアンドロゲン作用を持つことが問題となっていました。
本剤は、プロゲステロン作用と抗アンドロゲン作用を持つことが特徴です。

投与期間を限定して用いる薬剤(偽閉経療法)

◆ダナゾール(ボンゾール)
アンドロゲン作用による直接効果が高く、子宮内膜増殖抑制効果は高いです。
卵胞発育を抑制し、低エストロゲン状態をもたらします。


ただし、副作用として重篤血栓症があり、警告として記載されています。
血栓症の初期症状は、血栓の詰まる場所が特定できないため
各部位で説明すると患者は相当不安になると思います。服薬説明も難しい薬剤です。
また、にきび、男性化、体重増加、肝機能障害も頻度の高い副作用です。
ダナゾール治療歴のある患者は、卵巣癌の発生が有意に高いという報告もあります。


低用量製剤の100mg錠は、乳腺症の適応も取得しています。
1983年から使用されている、歴史の長い薬です。投与期間は通常4カ月です。


適応外では、血液内科領域で、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)に用いられます。
従って、男性にも処方されることのある薬剤です。


◆ブセレリン酢酸塩(スプレキュア点鼻液他)
GnRHアゴニスト製剤。1988年の発売です。
GnRHアゴニスト製剤の投与期間は通常6カ月です。
therapeutic windowと呼ばれる30〜50pg/mLに血中エストラジオール濃度をコントロールします。


子宮筋腫も30〜60%縮小させ、投与終了後8週まで維持されます。
効果は優れた薬剤です。
しかし、骨塩量低下のため、原則6カ月以上の使用はできません。
薬歴で投与期間をチェックする必要があります。


GnRHアゴニスト製剤の問題点は
内因性エストロゲン分泌抑制に伴う更年期症状と骨密度の低下とされています。
副作用の主なものは、ほてり、神経過敏、肩こり、頭痛、不正出血などであり
重大なものとしてうつ状態、血小板減少などがあります。
リウマチ様の関節痛が現れ、投与中断の原因となることもあります。
投与終了後から月経再開までの期間は約6週間です。


◆酢酸ナファレリン(ナサニール点鼻液他)
ブセレリンと同様、GnRHアゴニスト製剤。2009年の発売です。
反復投与により、下垂体のGnRH受容体数を減少させます。
また、下垂体のGnRHに対する反応性を低下させます。


副作用はブセレリンと同様ですが、重大な副作用はブセレリンの方が多く報告されています。
発売されてからの期間が大幅に異なるからかもしれませんが
骨塩量の低下は本剤の方がマイルドだといわれています。
本剤も、投与終了後から月経再開までの期間は約6週間です。

add-back療法とdraw-back療法

add-back療法は、GnRHアゴニスト治療によりエストロゲンが低下した場合に
エストロゲンを補充してエストラジオールを適正な治療域に調整する方法です。
これは副作用防止のために行われますが、薬の総投与量が増えるデメリットがあります。
結合型エストロゲンプレマリン)などが処方されます。
次に解説するdraw-back療法より効果的な治療法です。


一方、GnRHアゴニストは用量依存性に脳下垂体を抑制するので
投与量を減じるとエストロゲン分泌をある程度保つことができるという特性があります。
これを応用し、GnRHの投与間隔を通常よりも開けて行う治療法がdraw-back療法です。
このような治療も行われます。

その他の薬剤

漢方薬
加味逍遥散が繁用されますが
桂枝茯苓丸や当帰芍薬散、時には桃核承気湯、通導散なども用いられます。


◆鎮痛薬
痛みが非常に強くなってからよりも
月経開始前から服用した方が効果があると言われます。


◆ロイコトリエン拮抗薬
保険適応外ですが、子宮内膜症の痛みに
ロイコトリエン拮抗薬が処方されることがあります。