アクトス

チアゾリジン薬の投与は慎重に
岩岡 秀明先生(船橋市立医療センター代謝内科部長)
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/iwaoka2/201107/520962.html


チアゾリジン薬は
脂肪細胞に作用してインスリン抵抗性を改善する経口血糖降下薬である。


作用機序

チアゾリジン薬の標的は脂肪細胞の核内受容体PPARγである。
PPARγに結合することで、脂肪細胞から分泌されるさまざまな物質
(アディポサイトカイン)のうち、インスリン抵抗性を惹起する物質
(遊離脂肪酸(FFA)、TNF-α、レジスチン)の分泌を減少させ
インスリン感受性を改善する物質(アディポネクチン)の分泌を増加させる。

適応

特にBMI高値(25以上)の肥満
あるいはHOMA-R≧2.5でインスリン抵抗性を示す場合が良い適応である。
非肥満のケースでも有効な場合がある。
ただし、食事療法が順守不良で過食傾向が持続している場合には
肥満の有無を問わず、次第に体重と体脂肪が増加する。
インスリン抵抗性がいったん改善しても
再びインスリン抵抗性が増大する可能性があり
ピオグリタゾン使用例では体重増加を特に注意する必要がある。

臨床上の位置づけ

欧米の糖尿病ガイドラインではチアゾリジン薬を
インスリン抵抗性が想定される2型糖尿病における第2選択薬として位置づけている。
その理由は副作用(特に浮腫)の頻度が高いこと、体重増加を来しやすいことである。
筆者の考えも同様で
肥満およびインスリン抵抗性の2型糖尿病患者に対する第1選択薬はビグアナイド薬である。
今年5月からは、1日最大2250mgまで使用できるメトグルコの長期処方が可能となった。
従来の最大用量である750mgで効果が不十分な場合、ぜひ増量を検討していただきたい。
ただし、7月27日に出た医薬品・医療機器等安全性情報では、メトグルコとの
因果関係が否定できない乳酸アシドーシスが3例報告されており今後注意を要するだろう。
脱水症状や腎機能などのモニタリングも怠りなく行う必要がある。
チアゾリジン薬は、副作用などでビグアナイド薬が使用できない場合
またはビグアナイド薬単独では効果が不十分な場合に使用すべきであろう。  

副作用・使用上の注意

頻度の高い副作用は浮腫である。
特に女性における頻度は約12%と高く(男性では約4%)
投与を始めて比較的早期(4カ月以内)に出現し
罹病期間が長く(5年以上)、細小血管合併症がある例で多いという特徴がある。
したがって、3kg以上の体重増加、息切れ(特に労作時)
原因不明の疲労感などの症状には注意が必要である。
膀胱癌のリスクは投与期間が長くなるほど高くなる傾向も認められており
ピオグリタゾンの投与に当たっては、以下の点に注意する必要がある 。
・膀胱癌を治療中の患者には投与を避けること。
また、特に膀胱癌の既往を有する患者には
本剤の有効性及び危険性を十分に勘案した上で、投与の可否を慎重に判断する。
・投与開始に先立ち、患者あるいは家族に
膀胱癌発症のリスクを十分に説明してから投与する。
・投与中に血尿、頻尿、排尿痛などの症状が認められた場合には
直ちに受診するよう、患者に指導する。
・投与中は定期的に尿検査などを実施し、異常が認められた場合には適切な処置を行う。
また、投与終了後も十分な観察を継続する。

これらの注意点は添付文書に追記される予定だが
筆者もこれに従い、膀胱癌治療中の患者および膀胱癌の既往がある患者には
ピオグリタゾンを使用しないようにしている。