TS1→UFT

胃癌術後の抗癌剤の切り替え

http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/di/diquiz/ より一部改変

◆Question

胃癌の手術を受け、1カ月前に退院した70歳の男性
先生から「手術後の経過も順調なので、今日から薬を変えてみる」と言われました。


処方せん
ユーエフティE顆粒 1.5g
1日3回 毎食後服用 14日分


前回までは、ティーエスワンカプセル20が、1日2カプセル、1日2回で処方されていた。
(一般名:テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)

◆疑義照会

少なくとも7日間の休薬期間を置く必要がある。


ティーエスワンからユーエフティEに変更されていますが
休薬期間を置かずにこの切り替えを行うと、相互作用が起きて
5-FUの血中濃度が上昇してしまう可能性があります。


ティーエスワンには、5-FUの血中濃度を長時間維持させるために
体内での分解を阻害するギメラシルが配合されています。


そのため、ユーエフティEなどの他のフッ化ピリミジン系薬剤を併用すると
血中の5-FU濃度が上昇してしまいますので、同時併用は禁忌となっています。


このギメラシルの作用は投与中止後もしばらく続きますので
すぐにユーエフティEに切り替えると
同時併用の場合と同じように相互作用が起きる可能性があるのです。
切り替える際には、ギメラシルの半減期や、骨髄機能抑制の回復までに要する期間を
考慮して、7日間以上、休薬期間を空ける必要があるとされています。

◆解説

胃癌の化学療法において、多く使用されている抗癌剤の一つが、フルオロウラシル(5-FU)もしくは同剤のプロドラッグを主成分とする「フッ化ピリミジン系薬剤」である。5-FUは、癌などの分裂の盛んな細胞内に多く取り込まれ、DNA合成経路やRNA機能を阻害し、抗癌作用を発揮する。


5-FU自体は、生体内半減期が短く投与設計が難しいため、現在では、半減期が長く体内で徐々に5-FUに変換されるプロドラッグの使用が主流になっている。Cさんに処方されたユーエフティE(一般名:テガフール・ウラシル)やティーエスワン(一般名:テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)も、5-FUのプロドラッグであるテガフールが主成分である。


ただし5-FUは、血中濃度が過度に上昇すると、骨髄抑制や劇症肝炎などの重篤な副作用を来すため、慎重な投与量設定が必要である。このため、原則としてフッ化ピリミジン系薬剤同士の併用は行われず、中でもティーエスワンは、他のフッ化ピリミジン系薬剤との併用が禁忌となっている。


これは、ティーエスワンに、5-FUの主たる解毒酵素であるジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ(DPD)を可逆的に阻害するギメラシルが配合されているためである。ギメラシルは、ティーエスワン投与後の血中5-FU濃度を長時間維持するために配合されているが、ここに他のフッ化ピリミジン系薬剤が併用されると、血中5-FU濃度が大きく上昇する。実際、ラットにティーエスワンとフッ化ピリミジン系薬剤を同時に7日間投与したところ、血中5-FU濃度は、ティーエスワンの単独投与時に比較して、5-FUで4.1倍、テガフールで8.1倍、テガフール・ウラシルで2.8倍と、相乗的に上昇したことが報告されている。


さらにティーエスワンの添付文書では、重要な基本的注意の欄に、「他のフッ化ピリミジン系薬剤を投与する場合には7日以上の間隔を空けること」と記載されている。ギメラシルの半減期は、ティーエスワンの連続投与中でも4.2時間程度であり、投与後24時間程度経てば、血中濃度は十分に低下していると考えられる。しかし、DPDによる5-FUの代謝が行われる肝臓において、ギメラシルがどの程度蓄積されるのかが不明なこと、ティーエスワンの投与制限毒性(DLT:dose limiting toxicity)である骨髄機能抑制の回復までに、おおむね1週間が必要であることなどが考慮され、7日以上の必要休薬期間が設定されている。


この相互作用は、DPD阻害作用のあるソリブジンとフッ化ピリミジン系薬剤が併用されて死亡例が続出し、社会的な問題にもなった「ソリブジン事件」とメカニズム的にはほぼ同じであり、十分な注意が必要である(ただし、ソリブジンのDPD阻害作用は非可逆的である)。このケースのように、医師が、切り替え時の休薬期間の必要性を理解していないことも十分に想定されるので、ティーエスワンが処方された際には、その前後にフッ化ピリミジン系薬剤が投与されていないかを必ずチェックし、少しでも投与の疑いがあれば処方医に疑義照会を行う、といった慎重な姿勢が必要である。