コレステロール摂取制限はなぜ撤廃されたのか

コレステロール摂取制限はなぜ撤廃されたのか
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/di/column/soudan/201506/542692.html


【質問】
「2015年日本人の食事摂取基準」では、
コレステロール摂取制限に関する記載がなくなったと聞きました。
なぜ撤廃されたのでしょうか。取り過ぎに注意する必要はないのでしょうか。
また患者から相談を受けた場合、どのようなアドバイスをすべきなのでしょうか。
(40代 薬剤師)


【回答】
コレステロール値と摂取量の相関示せず
原因を突き止めて包括的な管理を
回答者 佐藤靖史先生(日本動脈硬化学会理事長)


2013年秋、米国心臓病関係学会(ACC/AHA)が発表した
「心血管疾患リスク低減のための生活習慣マネジメントのガイドライン」の中で、
コレステロール摂取量を減らして血中コレステロール値が低下するかどうか
判定する証拠が数字として出せないことから、コレステロールの摂取制限を設けない」
との見解が示されました。


また15年2月に発表された米国農務省(USDA)の
一般向けのガイドライン作成委員会リポートでも、
コレステロール摂取制限をなくすことが記載されています。


わが国でも米国と同様に、健常者において
食事中コレステロールの摂取量と
血中コレステロール値の間の相関を示すエビデンスが十分ではないことから、
「2015年日本人の食事摂取基準」では、従来定められていたコレステロールの食事摂取基準
(18歳以上の男性では750mg/日未満、女性では600mg/日未満)が撤廃されました。


日本動脈硬化学会は、健常者に対する摂取基準の撤廃には賛同の立場です。
食事によるコレステロール摂取量を制限しても、
血中コレステロール値が下がる人と、下がりにくい人がいて、
個人差が大きいことが理由です。
ただし、LDLコレステロール値が高い人は、
動脈硬化性疾患を発症するリスクが高いことから、
従来通りコレステロール摂取を制限することを推奨しています。


さらに、血中コレステロールを下げるためには、
食事によるコレステロール制限だけではなく、
運動、生活習慣を包括的に見直すことが必要です。


そこで「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」では、
(1)禁煙し、受動喫煙を回避する、
(2)過食を抑え、標準体重を維持する、
(3)肉の脂身、乳製品、卵黄の摂取を抑え、魚類、大豆製品の摂取を増やす、
(4)野菜、果実、未精製穀類、海藻の摂取を増やす、
(5)食塩を多く含む食品の摂取を控える、
(6)アルコールの過剰摂取を控える、
(7)有酸素運動を毎日30分以上行う──を挙げています。


標準体重を維持するには、エネルギーの多い食品を控えるのが効果的です。
特に、炭水化物、脂肪ともに多く含む菓子類などは控えるべきです。
さらにラード、バターなどの動物性油、肉の脂身は飽和脂肪酸が多い食品です。
飽和脂肪酸はLDLコレステロール値を上げることが知られていますので、
摂取は控えた方がよいでしょう。同様に乳製品のうち、
生クリーム、バターが飽和脂肪酸の多い食品として知られています。


一方、コレステロールの排出を促す食品には大豆、魚類、海藻、野菜などがあり、
これらは抗動脈硬化的な作用を持つことが多数の研究で示されています。
そのため本学会では、これらの食品を使った伝統的な日本食の摂取を推奨しています。
なお、海外で紹介されることの多い寿司、天ぷらなどは、
伝統的な日本食ではなく、“和食”であることに注意が必要です。


(「日経ドラッグインフォメーション」2015年6月号)