ACE阻害剤による空咳

ACE阻害剤の服用時期が変更された理由
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/di/diquiz/ より一部改変


◆Question

40歳男性
乾いた感じの咳が出るようになったので
先生に相談したら、薬の副作用だと言われました。
ただ、さほどひどくないということで、薬を飲む時間を変えるのと
漢方薬を飲むことで様子をみてみましょうと言われました。
でも、なぜ薬を飲む時間を変えるのでしょうか。
漢方薬で、薬の副作用が治るということはあるのでしょうか。


処方せん
レニベース錠5 1錠 
 分1 夕食後服用 14日分
ツムラ麦門冬湯 9.0g
 分3 毎食前服用 14日分


※前回までは、レニベースが、朝食後服用で処方されていた。

◆服薬指導

レニベースは、服用時期を朝から夜に変えると
多くの方で、咳の副作用が軽くなります。
そのメカニズムはよくわかっていませんが、夜に服用することで
咳の原因となる物質が体の中に溜まるのを防いでくれるのだと考えられています。


麦門冬湯は、咳や気管支炎の治療に使われる漢方薬です。
副作用で起こる咳は、一般に使われる効果の強い咳止めでも治りにくいのですが
麦門冬湯を使うと大半の方で咳の症状が軽くなります。
こちらもメカニズムは不明ですが、咳の原因物質の働きを抑えるのだと考えられています。

◆解説

 マレイン酸エナラプリルの服用中に空咳の副作用を訴えた24人の患者で、投与時期を朝食後から夕食後に変更した研究では、3人で空咳が完全に消失し、17人で症状が軽減したと報告されている(残り4人は不変)。投与時期の変更により空咳が軽減される機序の詳細は不明だが、ACE阻害剤を夜に投与すると、朝に投与した場合よりも、空咳の原因となるブラジキニン血中濃度の上昇が低いことが確認されている。なおACE阻害剤では、夕食後に服用した場合にも、夜間血圧の過度な降下は起こりにくいとされる。

 ACE阻害剤による空咳を軽減する目的で、麦門冬湯が併用される場合がある。エナラプリル服用中に断続的な空咳を呈した7人の患者に、麦門冬湯1日9gを投与した研究では、3人で自覚症状が全くなくなり、3人で明らかな症状軽減を認めたと報告されている(残り1人は無効)。

 麦門冬湯の鎮咳効果をもたらす主要な有効成分は、ステロイドサポニンの一種であるオフィオポゴニンだと考えられている。オフィオポゴニンがどのように作用するのかはよくわかっていないが、ACE阻害剤による空咳にはコデインのような中枢性鎮咳剤は無効である場合が多いことから、同成分は、ブラジキニンやサブスタンスPなどに起因する咳反射を、末梢で抑制するのではないかと推測されている。