シベノール

空腹感を訴える不整脈患者
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/di/diquiz/ より一部改変

日経DIクイズ 服薬指導・実践篇 5

日経DIクイズ 服薬指導・実践篇 5

  • 発売日: 2003/10/04
  • メディア: 単行本

◆Question

66歳の男性
このお薬を飲むようになってから
お腹がすくようになり、よく食べるようになりました。
それで体重も以前に比べ、増えてしまいました。
食欲がわいてきたのは、体調が良くなっているからなのでしょうか。


《処方せん》
シベノール錠100mg 3錠
 分3 毎食後 14日分

◆服薬指導

シベノールで「お腹がすくようになった」とのことですが
それは薬の副作用によるものと考えられます。
シベノールは膵臓から分泌されるインスリンの量を多くする作用を持っています。
インスリンがよく出るようになると、血糖値が下がってお腹がすくのです。
先生に確認をしましたところ、今はこの薬をやめることはできないので
ばらく飲み続けていただくことになりました。
血糖値が下がり過ぎますと、めまい、ふらつき、冷や汗などが出てきます。
もし、そういった症状を感じた場合には、まずこちらのブドウ糖を飲んで
その後すぐに先生までご連絡ください。

◆解説

コハク酸シベンゾリン(シベノール)は、ジソピラミド(リスモダンほか)などと同様、Vaughan Williams分類Ia群に分類される抗不整脈剤である。同剤は、主として腎より未変化体で排泄される腎排泄型の薬剤で、ナトリウムチャネルを抑制することにより、抗不整脈作用を発揮する。

 一般にIa群の抗不整脈剤は、抗コリン作用に基づく副作用が出現することが知られている。しかし、シベンゾリンは構造上の特性から、抗コリン作用は弱いと言われている。

 一方、Ia群の抗不整脈剤の中で、特にジソピラミドとシベンゾリンは、副作用として低血糖を引き起こす場合があることが数多く報告されている。その作用機序については、インスリン分泌の促進によるものであることが判明し、現在ではその分子メカニズムも明らかにされている。

 インスリンの分泌には、膵β細胞のATP感受性カリウムチャネル(KATPチャネル)が関与している。食事などで血糖値が上昇し、ブドウ糖代謝されてできるATPが増加すると、膵β細胞のKATPチャネルが閉鎖する。すると、β細胞は静止電位を維持できなくなり、膜電位の変化によって、電位依存性のカルシウムチャネルを開放、細胞内にカルシウムが流入し、その刺激でインスリンが分泌される。

 ジソピラミドとシベンゾリンの主たる作用部位はいずれもナトリウムチャネルであるが、どちらの薬剤にも、本来の働きとは異なる、KATPチャネルに結合してその機能を阻害するという作用が見い出されている。すなわち、このKATPチャネル抑制作用によって、インスリン分泌が促され、低血糖状態が生じるものと考えられている。

 シベンゾリンの添付文書には、低血糖の発現頻度が「0.1〜5%未満」と記載されているが、報告によっては、血糖低下が約20%に認められたとするものもある。また、別の研究では、同剤の服用者12例を調べたところ、うち9例に空腹感などの何らかの低血糖関連症状が認められたと報告している。もっともこの報告では、重篤低血糖発作を発現した症例はなかったとしており、空腹感などの低血糖関連症状が必ずしも重篤低血糖発作に直結するわけではないようである。

 ただし、シベンゾリンは腎排泄型の薬剤であるので、腎機能の低下した患者あるいは高齢者ではシベンゾリンのクリアランスが小さくなる。このような患者では、血中シベンゾリン濃度の上昇に基づく低血糖に注意する必要がある。また、相互作用により薬剤の効果が増強される場合も低血糖に要注意である。添付文書では、β遮断剤のプロプラノロール(商品名:インデラルほか)との併用によりシベンゾリンの作用が増強されることから、併用注意となっている。