イトリゾール × パルミコート

吸入ステロイド剤使用中に出された抗真菌剤

日経DIクイズ 服薬指導・実践篇7

日経DIクイズ 服薬指導・実践篇7


http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/di/diquiz/ より一部改変

◆Question

45歳男性
爪白癬治療のため皮膚科診療所を受診。


処方せん
イトリゾールカプセル50 8カプセル 1日2回 朝夕食直後 7日分
(他院処方 パルミコート100タービュヘイラー)

◆疑義照会

CYP 3Aに対する阻害作用により、パルミコートの血中濃度が上昇し
副作用を来す可能性があるため、ラミシールなどへの変更を提案する。

◆解説

パルミコートタービュヘイラーは吸入後、一部が嚥下されるなどして、全身血へ移行する。この過程でブデソニドは、CYP3Aにより初回通過代謝を受けるが、イトリゾールを併用すると、それが強く阻害され、ブデソニドの血中濃度が上昇し、副腎皮質ステロイド剤の全身症状が現れる恐れがある。

実際、両剤の併用によりクッシング症候群を引き起こした症例が海外で報告されている。70歳の白人女性が、喘息の治療のために長期間にわたってブデソニドを吸入していた。ある時、Scedosporium apiospermum の皮膚感染のため2カ月間にわたりイトラコナゾールを使用した後、患者はクッシング症候群を呈し、二次的な副腎機能抑制に陥り、ヒドロコルチゾン置換による長期の処置が必要となった。

イトラコナゾールの内服がブデソニド吸入時の血中濃度に及ぼす影響については臨床試験でも検討されている。イトラコナゾール200mgを1日1回5日間服用し、最後の服用の1時間後にブデソニド1000μgを吸入した結果、ブデソニドのAUCは平均4.2倍に増加した(図)。また、ブデソニド吸入時のコルチゾール産生もイトラコナゾールにより有意に抑制され、血中コルチゾールのAUCは43%低下した。

ブデソニドの代謝は、同じくCYP3Aを阻害するケトコナゾール、エリスロマイシン、シクロスポリンによっても強く影響を受ける。

今回の場合、ブデソニドの投与量を減らすか、あるいは適応症が合致するならばイトラコナゾールを、CYP3Aへの阻害作用の弱いテルビナフィン(商品名:ラミシール)へ変更する方法が考えられる。ただし、ブデソニドの減量は、喘息への治療効果が低下する可能性があるので推奨できない。ブデソニドとイトラコナゾールを併用せざるを得ない場合は、副作用の前駆症状を注意深くモニターしながら、慎重に両剤を使用する必要がある。

また、吸入剤のような非経口剤が、全身性の作用を及ぼすことに注意を払わない医師や患者は少なくないと思われる。薬剤師は、吸入剤であっても、薬物の一部が全血に移行して、時に全身性の副作用や相互作用が生じることを常に念頭に置いて、処方鑑査や服薬指導に当たるべきだろう。