インクレチン




山口県医師会報 (平成20年5月)より一部改変
http://www.yamaguchi.med.or.jp/kaihou/sentan/2005.pdf

インクレチンとは

インクレチンとは栄養素の経口摂取により腸管から分泌され
膵臓からインスリン分泌を促進させる消化管ホルモンの総称で
GLP-1は小腸下部のL細胞から、GIPは小腸上部のK細胞から分泌される。

DPP4とは

DPP4阻害薬は、インクレチンを分解するDPP4を阻害することで
血中のインクレチンレベルを高め、インスリン分泌を増やして血糖値を下げる。

インクレチンの作用

現在までにGIPとGLP-1の2種類のインクレチンが同定されているが
治療のターゲットとしては、GLP-1の方が高い注目を集めてきた。
GLP-1の分泌が2型糖尿病患者で低下していること
GLP-1を増加させると血糖が実際に下がることなどが報告されている。



インクレチンによるインスリン分泌促進はグルコース依存性であるため
血糖値が低いときにはインスリン分泌を促進しない。
したがって、インクレチン作動薬は
それ自体では低血糖を来さないことが期待できる。


また、GLP-1は中枢神経系への作用をもつことが知られており
動物の脳室内にGLP-1を投与すると食欲を強力に抑制する。


すでに欧米で発売されているGLP-1アナログの効果として
体重抑制が報告されており
消化管への作用とともに中枢作用が関与していると考えられる。


GLP-1を治療に用いる場合の欠点は非常に短い半減期である。
末梢に分泌されたGLP-1は直ちにDPP4で不活化される。
このため、外からGLP-1の投与を行った場合にもその半減期は2分以下と言われている。


したがって、GLP-1そのものを実際の治療薬として用いることは難しいが
多面的なGLP-1の作用はやはり魅力的であり
GLP-1の作用経路に着目した治療薬の開発が進行中である。


短い血中半減期を克服するため、主に2種類のアプローチが試みられている。
一つはDPP4に対して安定なGLP-1誘導体であり、他の一つは
内因性のGLP-1の血中半減期を延ばし、作用を高めるDPP-4阻害薬である。

GLP-1の作用

グルコース依存性のインスリン分泌促進
インスリン生合成の促進
グルカゴン分泌の抑制
胃内容物の小腸への排出遅延、栄養素の吸収スピードの抑制
食欲の抑制
膵β細胞の増殖・分化の促進と膵臓β細胞のアポトーシス抑制

GLP-1誘導体

エキセナチド(商品名:Byetta バイエッタ)は
北米に生息するトカゲの唾液腺から単離されたペプチドで
エクセナチドを投与した場合、インスリン分泌が促進されるとともに
食事摂取量の抑制や胃排泄の抑制が認められる。


さらに、SU薬やビグアナイドのみでは血糖コントロールが不十分な
2型糖尿病を対象に、1日2回皮下注射で30週間投与する臨床治験が行われ
空腹時血糖やHbA1cの低下のみならず、体重の減少が確認された。


これらの結果を受けて、2005年春に臨床投与が米国FDAによって承認され
米国で広く使われるようになった。
体重を増加させず、むしろ減少させる糖尿病治療薬として、注目を集めている。


リラグルチドは
血中アルブミンと結合することによりDPP4による分解に安定となり
最高血中濃度到達時間は9〜12時間、半減期は13時間と長くなる。
Liraglutideの臨床試験からは、その薬理特性に一致して
空腹時血糖値と食後血糖値の双方とも効果的に低下させることが実証されている。


最近の臨床データによれば
リラグルチドは経口糖尿病薬の併用なしで14週後に1.7%のHbA1cの低下を達成し
また約50%の患者がHbA1cの目標値に達することができたことが示されている。
日本では現在、臨床第Ⅲ相試験が進行中である。

DPP4阻害薬

DPP4阻害薬の利点は経口投与が可能であることである。
短所としては、インクレチンの活性を高めるだけでなく
種々の生体内に存在する生理活性ペプチドの分解にも関与するため
予想外の副作用が生じる可能性があることである。
DPP4はリンパ球の細胞膜上にも存在するため
DPP4を抑制した際には、免疫系への影響が生じる可能性がある。


ロシグリタゾンとビルダグリプチンとの比較では
24週で、HbA1cはビルダグリプチンで1.1%、ロシグリタゾンで1.3%低下し
ビルダグリプチンの有効性がロシグリタゾンに劣るものではないことが示された。
体重は、ロシグリタゾン投与群で有意に増加(投与前に比べ1.6kg)
したのに対し、ビルダグリプチン投与群では変化しなかった。


ビルダグリプチンとメトホルミンの比較試験では
投与期間52週でHbA1cの変化は、両群間で有意な差はなかった。
両群とも1年を通して、HbA1cの低下が維持されていた。


シタグリプチンもほぼ同様の結果である。
欧米でのDPP4阻害薬の結果を簡単にまとめると
DPP4阻害薬は経口投与可能な2型糖尿病治療薬であり
HbA1cを約1%程度低下させ、体重に関しては大きな影響がない、といえる。


ビルダグリプチンはヨーロッパを中心に
シタグリプチンは北米を中心に承認され発売されている。
日本でも両者の第3相試験が終了し、承認申請されたところである。



エキセナチド (リリー)exenatide
リラグルチド (ノボ)
シタグリプチン (メルク)
ビルダグリプチン (ノバルティス)