糖尿病性腎症の新しい発症メカニズムを発見

糖尿病性腎症の新しい発症メカニズムを発見 新たな治療法に期待
http://www.dm-net.co.jp/calendar/2013/020930.php



慶応義塾大学の研究チームは、
糖尿病腎症の新しい発症メカニズムの解明に成功したと発表した。
糖尿病腎症の原因として、
「尿細管−糸球体連関」という従来にない新しい考え方を提唱し、
より早期に診断することで発症を防ぐ“先制医療”の可能性を示した。


高血糖により真っ先に障害を受けるのは尿細管
糸球体には毛細血管が集まっている。
血管が詰まれば尿は生成されなくなり、逆に目が粗くなれば、
体のタンパク質が素通りしてタンパク尿として排出される。
また、腎臓にはこの濾過器でこしとられた原尿(尿のもと)が通る
「尿細管」という部分があり、そこで必要な物質を再吸収したり、
老廃物をさらに原尿の中に排泄する仕組みになっている。


高血糖を放置しておくと糸球体の血管はダメージを受ける。
正常なら濾過されない血液中のタンパクが、
糸球体を素通りして排出されるようになる(タンパク尿)。
これが尿細管を痛めつけることから、
これまで糖尿病腎症は糸球体障害として捉えられ、
糖尿病腎症の研究は糸球体の障害のメカニズムを中心に行われてきた。


今回、研究グループは、糖尿病が糖分や脂肪分を利用して
エネルギーをつくりだす「代謝」の異常であることに着目し、
腎臓の細胞でもっとも代謝が活発な尿細管が真っ先に障害を受けていると考えた。


アルブミン尿が出る前から糖尿病腎症は始まっている
多くの生命体で、
カロリー摂取を制限することで、寿命を延長させることが知られている。
これは「長寿遺伝子サーチュイン(Sirt1)」と呼ばれる遺伝子が、
カロリー制限することで増加することで説明できる。


研究チームは、腎臓でもSirt1の発現は増加することや、
尿細管での意義に注目し研究を行った。
そして、糖尿病では、カロリー制限した場合とは逆に
Sirt1のレベルが、糸球体障害が生じる前の時点から
すでに尿細管で低下していることを発見したほか、
Sirt1のレベルの低下が細胞の中でエネルギーの状態を調節する役割を果たす
ニコチン酸」の代謝を障害することを発見した。


さらに研究を行い、ニコチン酸のうち「ニコチン酸モノヌクレオチド(NMN)」
という物質が尿細管から糸球体に放出されることを突き止め、
その放出が糖尿病では低下していることを発見した。


NMNの放出レベルが減ると、
糸球体のふるいを構成する「足細胞」という細胞の機能に異常が生じ、
足細胞のSirt1の発現が低下する。
すると、ふるいを構成するタンパク「クラウディン-1(Claudin-1)」の発現が上昇し、
ふるいが障害されタンパク尿が出現するという一連の病気の流れが判明した。
この連関について研究チームは、「尿細管-糸球体連関」と名付けた。


今回の研究によって、
アルブミン尿が出る前から、すでに尿細管ではエネルギー代謝の失調を起こし、
糸球体障害を招いていることがあきらかになった。
尿細管−糸球体連関の破綻が生じたときには、
もうすでに糖尿病腎症は発症しているという。


糖尿病腎症の早期診断としてアルブミン尿(微量タンパク尿)を検出する検査が、
糸球体の障害を早期に検出する方法として多くの患者で行われている。
尿中のNMNの低下やClaudin-1の上昇レベルを測定すると、
糖尿病腎症をより早期に診断できるようになると、研究グループは述べている。


さらに、この連関の断絶を修復する、例えばカロリー制限や
運動をすることで腎臓のSirt1の働きを活発にすることや、
NMNを補充するといった新しい治療が有効である可能性が示された。
「糖尿病腎症はある程度進むとなかなか進行を止められません。
これまでの進行を遅らせる治療から、発症させない“先制医療”が極めて重要です」
と、研究チームは説明している。


同成果は、慶応義塾大学医学部内科学教室(腎臓内分泌代謝内科)の
長谷川一宏助教、脇野修専任講師、伊藤裕教授、
マサチューセッツ工科大学のLeonard Guarente教授らによるもの。
詳細は、「Nature Medicine」オンライン版に発表された。